「EUバイオエコノミー 2040年予測レポート」を読む【前編】
こんにちは、今年7月に買ったパソコンが、早くも壊れました。論文のデータが全てそっちに入っており、論文が書けなくなったため、the Letter 約1ヶ月ぶりの更新です。論文の締め切りは1月末なのですが、間に合うのでしょうか。パソコンが帰ってくるまで、記事書いて待ってようと思います。
さて、そんな僕の復活を待っていたかのように、欧州連合(EU)の研究機関である共同研究センター(JRC)が、報告書「The EU bioeconomy towards 2040」を発表しました。このレポートは、EUのバイオエコノミーが2040年に向けてどのように発展していくかを、経済モデルを用いて分析したものです。
この報告書では、3つの異なる経済モデル(MAGNET、AGMEMOD、BioMAT)を組み合わせて、現在の政策や社会的傾向が続いた場合の「ベースラインシナリオ」を示しております。ちょうど僕が今書いている論文も似たような経済モデルなので、すごく楽しく読めました。
以下、今回の記事をまとめたインフォグラフィックです。正直もうこれだけ読んでいただければ大丈夫です笑。
とりあえず今回の前編では、この報告書の全体像を紹介しつつ、僕が目に止まったところをかいつまんで見ていきます。
バイオエコノミーとは何か
さて、長らくバイオエコノミーについて語っていなかったので、復習しておきましょう。
バイオエコノミーとは、再生可能な生物資源(バイオマス)を活用して、食料、材料、エネルギーを生産し、生態系の健全性にも貢献する経済活動の総体を指します。農業や林業から、バイオテクノロジー、バイオベース産業まで、幅広い分野を包含する概念です。
一言で言うと、「化石燃料に依存しない経済」です。自然資源から再エネ、テックなどなど、すべての領域でその移行が進めらております。
EUは2018年に「バイオエコノミー戦略」を発表し、「持続可能性」と「競争力」を同時に高めることを目指してきました。化石資源への依存を減らし、循環型経済へ移行するための重要な柱として位置づけられています。
なぜこの報告書が作成されたのか
この報告書が今発表された背景には、EUバイオエコノミー戦略の更新が2025年末に予定されているということあります。これも楽しみですね。欧州の高い目標を達成するためには、「バイオマスの供給と需要のギャップ (バイオマスギャップ)」を埋める必要があります。
報告書は、現在の傾向が続いた場合のシナリオを2040年まで予測することで、新しい政策シナリオの基準点を提供することを目的としています。つまり、今回の報告書は、「何もしなければどうなるか」シナリオを示すものという訳です。
「5つの社会的課題」
前回のEUバイオエコノミー戦略は2018年でして、そこでは5つの目標を掲げています。今回の報告書はこれらの目標をそのまま採用し、2025年から2040年までの変化を示してくれました。以下にサクッとあげておきます。
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食料・栄養安全保障の確保
人口が減少する中でも、すべての人々に手頃で栄養価の高い食料を供給する。 -
自然資源の持続可能な管理
農地や森林などの限られた資源を、生態系の許容範囲内で管理しつつ、
食料、飼料、エネルギー、材料の需要を満たす。 -
再生不可能な資源への依存削減
化石燃料や化石由来の化学製品への依存を減らし、バイオベースの代替品へ移行する。 -
気候変動の緩和と適応
温室効果ガス排出を削減し、気候変動の影響に適応する力を高める。 -
競争力の強化と雇用創出
バイオエコノミー産業の成長を通じて、経済的な競争力を高め、新たな雇用を生み出す。
主要な予測結果の概要
さて、報告書が示す特に重要なポイントを3つ見ていきましょう。
食料の手頃さは改善するが、健康的な食生活への転換は限定的
EU圏内の家計に占める食費の割合は、2025年の20.9%から2040年には20.0%へとわずかに低下します。これは、実質所得の増加によって、食料がより手頃になるということを意味します。一方で、1人1日あたりのカロリー摂取量は3,432kcalから3,580kcalへと増加する見込みです。
そして大事なのは、タンパク質摂取における動物性と植物性のバランスです。オランダを例にとると、動物性タンパク質の割合は、総タンパク質摂取量の60%以上を占め、この傾向は2040年まで安定して続くと予測されています。これは、「Eat-Lancet」などが提案する、人にも地球にも健康的な食事とは異なり、食生活のサステナブルな転換が起こらない可能性を示唆しています。
Lancetの提唱する食生活については、以前「地球が耐えられる牛肉消費量は1日7g」でまとめてますんでぜひどうぞ。端的にいうと、「食事の95%は植物性にしよう」です。
バイオベース産業は成長するが、スピードは不十分
バイオベース化学品の生産は着実に成長し、EU全体の化学品に占めるバイオベースの割合は2025年の13.7%から2040年には15.8%へと上昇します。しかし、化石ベースからバイオへの転換を達成するには、さらなる投資と政策支援が必要であると強調されます。
例えば、バイオプラスチックの生産量は2020年から2040年の間に倍増しますが、全ポリマー生産で見ると、その割合はわずか2.5%です。一方、農薬分野ではバイオベースの割合が2020年の62%から2040年には72%へと高まり、特定分野では大きな進展が見られます。
バイオ燃料の減少と電動化への移行
輸送部門では、電気自動車やバッテリー駆動の輸送手段への移行が進みます。その反面、バイオ燃料の使用量は2025年の20,764ktoe(石油換算キロトン)から、2040年には14,065ktoeへと約32%減少します。
特に、作物ベースのバイオ燃料は大幅に削減され、エタノールは54%減、バイオディーゼルは37.5%減となります。これらは廃棄物や残渣から作られる「先進的なバイオ燃料」に置き換えられるとのことです。
ざっくりまとめると、「2040年において、食生活は変わらない(不十分)、バイオ化学系は徐々に成長(不十分)、輸送はEVになりバイオ燃料は減少」といった感じですね。ベジ・ビーガンが多いヨーロッパでも食生活の変化はなかなか厳しいんですね。
温室効果ガス排出の削減と課題
さすがヨーロッパというべきか、気候変動対策の面では進展が見られるようです。
EU27か国の直接排出量は「2017年の約41億t-CO2から、2040年には約32億t-CO2へ」と約20%減少すると推定されています。これは主に、排出権取引制度によるものと、再エネシフトによるものだそうです。EUの炭素価格は2040年には201€/tと、順調に上がっています。
ちなみに、現状を日本と比較すると、
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EUの炭素価格は、€ 81.8/tCO2 (2025年12月3日時点, EU Carbon Permits)
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日本の炭素価格は、€ 23/tCO22 : 補助金調整前(2025年3月時点, OECD)
参考ですが、日本はまだまだ低く、OECDで最下位です。2026年から排出権取引が本格稼働、2028年から化石燃料に対する賦課金が始まるので上がるはずですが、もっと頑張ってほしいですね。
そして、GDP当たりの排出量(排出強度)は、「2025年の195.7トンCO2e/ユーロから2040年には138.1トンCO2e/ユーロへ」と約33%削減され、経済成長と排出のデカップリングが進むことを示しています。いわゆる「グリーン成長」ですね。
しかし、削減が順調にいかない分野もあるそうで。
農業、林業、漁業部門は、多くの排出が、家畜による メタン排出や、土壌からのN2O排出であり、生産量も安定しているため、排出量も横ばいで推移します。その結果、農業・林業・漁業がEU全体の直接排出に占める割合は、「2025年の13.8%から2040年には15.8%へ」と上昇します。
この点は、農業分野における政府の介入が不十分であることを示しており、追加の緩和・適応策が必要だと言われております。
廃棄物と循環経済の視点
サーキュラーエコノミーについても見ておきましょう。
EUの都市廃棄物総量は「2025年の2億880万トンから2040年には2億1,300万トンへ」とわずかに増加します。
興味深いのは、食品廃棄物と食料損失の動向です。これらは「2025年の5,730万トンから2040年には5,530万トンへ」と若干減少します。この要因は、単純な人口減少(-2%)と、所得増加による外食増加だと示されています。そう考えると、全然積極的には減らしてないですね。
一人当たりの食品廃棄物・損失量は、EU全体で「2025年の126.6kg/人/年から2040年には124.8kg/人/年へ」と約3.5%減少します。しかし、これはEUのバイオエコノミー戦略が目指す大幅な廃棄物削減には全く届いておらず、さらなる追加的な政策介入が必要だと示しています。
まとめ
この報告書が提示するのは、このまま行くとどうなるかという「ベースラインシナリオ」です。
そして、多くの分野において「このままでは不十分」ということが示されております。EUが掲げる目標は世界の先を行くものであるのは間違いないので、これを達成するために、政策や投資、社会行動をより進めていって欲しいですね。
後編では、特に僕の関心ごとである「食料・農業システム」と「気候変動」に焦点を当て、読んでいきます〜。
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EUバイオエコノミー戦略の更新が2025年末に予定されてる
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バイオプラスチックの生産量は、倍増
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バイオ燃料の使用量は、約32%減少
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EU27か国の排出量は、約20%減少
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農業・林業・漁業の排出量は、約2%増加
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食品廃棄物は、約3.5%減少
参考文献
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PHILIPPIDIS, G., VAN, L. M., BARTELINGS, H., SMEETS, K. Z., LAQUAI, V., STURM, V., ... & M'BAREK, R. (2025). The EU bioeconomy towards 2040.
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EU Carbon Permits, Traiding Economics, https://tradingeconomics.com/commodity/carbon, access 2025/12/03
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OECD. (2025). OECD environmental performance reviews: Japan 2025. OECD Publishing. https://doi.org/10.1787/583cab4c-en
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