AIは「グリーンで包括的な成長」をもたらすのか?

EU27カ国を分析した2026年1月の研究。
keene 2026.02.07
誰でも

時間がゆっくり取れてるので、いろんなAIを試している2月です。研究により特化していこうということでOllamaをインストールして、LlamaとDeepSeekをパソコンに入れました。秘匿性が重要な研究内容は、念の為ChatGPTやGeminiには入れないほうがいいと今更知ったので、何か生データの分析をするときはローカルのLLMを使っていこうと思います。まぁそんなに心配することもないと思いますが。

さて、今回は「包括的グリーン成長」という概念を扱った面白い論文を見つけたので読んでいきましょう。僕も初めて知りましたが、大変おもしろい概念です。

タイトルは、「EU における最先端技術の導入と包括的グリーン成長:諸刃の剣か?」です。AIを含む先端技術は、本当に持続可能な発展に貢献するのかという問いに対して、EU27カ国、24年間(2000〜2023年)のデータを使って挑んでおります。

結論から言いますと、「技術は経済成長と環境改善には効くけど、格差は広げる」という、なかなか悩ましい結果が出ています。

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「包括的グリーン成長」とは何か

はじめに、この論文の核心にある概念を整理しておきましょう。

「グリーン成長」という言葉はもうおなじみですね。環境負荷を減らしながら経済を成長させるという考え方です。反対に、「脱成長」は、環境負荷を減らすには経済成長も諦める必要があるという主張です。しかし、この論文が扱う「包括的グリーン成長(IGG)」は、グリーン成長側であり、さらにハードルを上げたものという感じです。

IGGは、以下の3つの要素を同時に達成することを求める概念です:

  • 経済成長:一人当たりGDPの向上

  • 公平な分配:所得格差の縮小(ジニ係数の低下)

  • 環境の質:温室効果ガス排出量の削減

つまり、従来の「グリーン成長」論は、経済と環境の両立に焦点を当てていましたが、IGGはそこに「誰もが恩恵を受けられるか」という社会的公正の視点を加えています。

経済が成長し、環境も改善されたとしても、その恩恵が一部の富裕層だけに集中しては意味がないと。成長するなら、全員が豊かになる「包括的な」成長でなければならない、という訳です。

これは、みんな大好き SDGs とかなり近い概念ですね。SDG8(働きがいも経済成長も)、SDG10(人や国の不平等をなくそう)、SDG13(気候変動に具体的な対策を)の3つを同時に達成しようという、なかなか野心的な目標設定です。

著者らは、この3要素を統合した「IGG指数」を作成し、各国ごとに算出しました。具体的には、経済成長率、ジニ係数の逆数(低いほど平等)、温室効果ガス排出量の逆数(少ないほど良い)を標準化して合成しています。プラスの値であればIGGを達成している、マイナスであれば達成できていない、という解釈になります。

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EU27カ国の評価:北欧が圧倒的、東欧は苦戦

次に、EU27カ国のIGG達成状況を見てみましょう。2000年から2023年までの23年間の平均値でランキングを作ると以下のとおりです。

IGG達成上位5カ国

  • 1. スウェーデン:3.782

  • 2. フィンランド:3.275

  • 3. ルクセンブルク:2.141

  • 4. デンマーク:2.019

  • 5. ベルギー:1.883

IGG達成下位5カ国

  • 23. ハンガリー:-2.063

  • 24. ポーランド:-2.145

  • 25. クロアチア:-2.451

  • 26. ブルガリア:-2.464

  • 27. ルーマニア:-4.620

僕のドイツ、フランスなどの大国がいないのは悲しいですが、北欧諸国が上位を独占し、東欧諸国が下位に並ぶという結果ですね。では、この「格差」がどこから来ているのでしょうか。

著者らが注目したのは、「先端技術の導入度(Frontier Technology Readiness: FTR)」です。この指標は、AI、IoT、ブロックチェーン、ドローン、ロボティクスなどの最先端技術を、各国がどの程度導入・活用しているかを測るものです。

EU27カ国のFTR分布を示す地図。北西ヨーロッパ(スウェーデン、オランダ、ドイツなど)が高く、東欧(ルーマニア、ブルガリアなど)が低い。Figure 1 から引用(Ofori et al., 2026, CC BY 4.0)

EU27カ国のFTR分布を示す地図。北西ヨーロッパ(スウェーデン、オランダ、ドイツなど)が高く、東欧(ルーマニア、ブルガリアなど)が低い。Figure 1 から引用(Ofori et al., 2026, CC BY 4.0)

FTR(先端技術の導入度)の上位国は図の青で示され、スウェーデン、オランダ、ドイツ、アイルランド、デンマーク、フランス、フィンランド、ベルギー、ルクセンブルクです。下位国は赤以下で、ルーマニア、スロバキア、ラトビア、クロアチア、ブルガリア。これは最終的なIGGランキングとほぼ一致しています。

ということで、「先端技術を導入すれば、包括的グリーン成長(IGG)も達成できる」という主張が成り立つ、と言いたいところですが、論文は「先端技術は諸刃の剣だ」という結論を出しています。

先端技術の「経済・環境・格差」への異なる効果

次に、著者らは、FTR(先端技術導入)がIGG(包括的グリーン成長)の「経済・環境・格差」への影響を分析しました。

1.経済成長への効果:⭕️

先端技術の導入度(FTR)が1ポイント上昇すると、一人当たりGDPが0.44〜0.64%増加することがわかりました。

なぜ経済成長に効くのかに関しては、以下の3つのメカニズムを挙げています。

  • 生産性の向上
    →AIやIoTによる自動化、リアルタイムモニタリング、予測分析が、製造業からサービス業まで、あらゆる産業の効率化を促進します。

  • 新産業の創出
    →海外送金のWiseを含むフィンテックなどが挙げられます。他にも、eコマースやデジタルヘルスなどですね。

  • 人的資本の蓄積
    先端技術の導入は、新しい教育が必要になるため、労働者のスキルを向上させることにつながります。

ということで、技術を導入すると経済が良くなるよ。なぜなら生産性が上がるし、新しい仕事が生まれるし、新しいスキルが得られるし、という経済の基本でした。

2.温室効果ガス排出への効果:

先端技術の導入度(FTR)が1ポイント上昇すると、温室効果ガス排出量が7.1〜17.4%減少します。これも統計的に有意です。デカップリングできていると言えるわけですね (この比率で十分とは言ってない)

メカニズムとしては、エネルギー効率の改善が大きいことが挙げられています。スマートグリッドや、IoTセンサーによるリアルタイム監視、AIによるエネルギー消費最適化など、「無駄を省く」という貢献によって、より少ないエネルギーで同じ結果を出せるようになる訳です。

農業分野でも、ドローン、センサー、GPSを使った精密農業によって、肥料・農薬を過不足なくぴったり与えることが可能になり、農業由来の排出削減に貢献しています。

ちなみに、僕はこの辺の研究もしたくて、ドローンの値段を調べましたが、本体が30万-300万と性能によって幅があり、資格を取るにも数万、講習受けるなら数十万かかるとのことで震えました。

3.所得格差への効果:❌️

そして、ここが注目ポイントです。先端技術の導入度(FTR)が1ポイント上昇すると、ジニ係数が0.018〜5.608ポイント上昇します。つまり、先端技術の導入は格差を拡大させます

論文の指摘する「諸刃の剣」ですね。なぜ技術が格差を広げるのか。著者らは2つの主要なメカニズムを指摘しています。

第一に、「スキル偏向型技術変化」です。先端技術は、データサイエンティスト、AIエンジニア、ロボット技術者など、高度なスキルを持つ労働者への需要を急増させます。

一方で、これまでルーティン作業を担っていた低・中スキル労働者は、この技術による自動化によって職を失ったり、賃金が抑制されたりしてしまいます。結果として、高スキル労働者と低スキル労働者の間で賃金格差が拡大します

第二に、「資本の集中」です。先端技術の導入には莫大な初期投資が必要です。AI業界で言うなら、システムの構築からデータセンターの整備、研究開発費用など、とんでもない資本が要求されます。そして、これらを負担できるのは大企業や資金力のある投資家だけです。その結果として、技術革新による恩恵は、「持つ者」に限られ、「持たざる者」との不均衡が生まれます。

Babina et al.(2024)の研究でも、先端技術による成長の恩恵は、主に大企業が受けており、それは、製品イノベーション、売上拡大、雇用増加などの資本力によって成り立っていることが実証されています。

つまり、先端技術がもたらす経済成長や環境改善の恩恵は、社会全体で共有する事ができないということを意味します。経済は成長し、環境は改善されても、その恩恵を受けられるのは一部のトップの人々だけ。これでは「包括的」とは言えません。

こういう構造的な不平等もあって、とある政党が影響力を増していると言っても過言ではないでしょう。

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政策面:技術楽観主義だけでは不十分

最後に、論文が提言する政策的な助言をダダっと4つ並べます。

第一に、先端技術への投資は継続すべき

デジタルインフラ、研究開発、スタートアップ支援など、技術導入を促進する政策は、経済成長と環境改善に確実に貢献します。EUの「デジタル・ディケイド」政策や「グリーンディール」の方向性は正しい。

EUの「デジタル・ディケイド」政策とは、2030年までにDXをめちゃ進めまっせというもので、ICT専門家を2,000万人にする、5Gを都市部全域に普及、主要な公共サービスを100%オンライン化する、など、具体的な目標を定めています。これも引き続き推進していくという訳です。

第二に、教育・訓練への投資を強化すべき

スキル偏向型技術変化による格差拡大を緩和するために、労働者をスキルアップさせる必要があります。そのため、デジタルリテラシー教育、リスキリングプログラム、STEM教育の拡充など、投資を継続的に行うことが鍵です。中・低リテラシー層を持ち上げる働きですね。

第三に、再生可能エネルギーへの移行を加速すべき

先端技術を進めつつ、環境への影響を減らすためには、風力、太陽光、バイオエネルギー、グリーン水素など、クリーンエネルギーへの投資が必要です。

そして第四に、再分配メカニズムを強化すべき

これがIGGの最も重要なポイントです。技術革新によって得られた利益を社会全体で共有するための「再分配政策」です。累進課税、社会保障制度の拡充、低所得層への直接支援、遅れた地域への重点投資などがあります。

技術だけでは格差が広がっていってしまうため、政府が積極的に市場に介入して行くことが不可欠になります。

***

まとめ:「グリーン」と「包括的」の両立は可能か

  • 包括的グリーン成長とは、経済・環境・公平性をすべて達成すること

  • ここ20年を振り返ると、北欧が圧倒的、東欧は苦戦

  • 最先端技術によって、格差が拡大することが示された

  • 政府による利益の再分配政策がマストになる

「技術革新が起きると格差が拡大する」これは、中田のあっちゃんの世界史の授業を通して共通する教訓でもありました。今回はそれがAIなどの最先端技術においても示されたということです。

EUでは、2027年からの新しい多年度財政枠組み(MFF)の議論が始まっています。DX・GXへの投資はこれからも伸びるでしょう。しかし、この論文が示すように、それだけでは「包括的な」成長はとは言えません。社会的結束基金、公正な移行基金、スキル開発プログラムなど、再分配的な政策との組み合わせが不可欠です。

***

参考文献

  • Babina, T., Fedyk, A., He, A., and Hodson, J. (2024). Artificial intelligence, firm growth, and product innovation. Journal of Financial Economics, 151:103745.

  • European Commission, “Europe's Digital Decade,” https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/europes-digital-decade, Last update 16 June 2025

  • Ofori, I. K., Gbolonyo, E. Y., Ojong, N., Figari, F., & Cullen, J. (2026). Frontier Technology Adoption and Inclusive Green Growth in the EU: A Double-edged Sword? Research Square (Preprint). https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-8639419/v1
    ※本論文は CC BY 4.0 ライセンスで公開されています。

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