気候変動と農業研究の35年間

2026年1月25日の気候変動と農業に関するレビュー論文。
keene 2026.02.03
誰でも

さあ、テストが一段落しまして論文漁り&まとめにも戻ってまいりました。皆さんは冬をいかがお過ごしでしょうか。私は1月末までだったとある論文募集には間に合わず、2月3月も継続で執筆して、またどこかのジャーナルに出そうと画策しております。

今回は「持続可能な未来のための気候適応型農業:科学の最前線と政策の方向性を明らかにする」という先月に出ていたレビュー論文が面白かったのでまとめておきます。

気候変動と農業に関する1426本の論文を分析した「ビブリオメトリクス分析」でありまして、1989年から2023年までの35年間の研究トレンドを俯瞰できるという、マンモス論文です。

そんなに実践的な内容ではありませんが、世界の研究者界隈のトレンドが何となく分かるという記事になっております。

今日のインフォグラフィック。Nanobanana proで作成。

今日のインフォグラフィック。Nanobanana proで作成。

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研究の全体像

まず研究手法も見ておきますと、著者らは、学術データベース「Scopus」を使って、「climate change」や「agriculture」などのキーワードで検索。最初に36,200件ヒットしたものを、社会科学・経済学分野の査読済み英語論文に絞り、最終的に1,426本を分析対象としました。

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出版数の推移:2009年以降に急増

論文の出版数を見ると、1989年から2000年代初頭までは年間10本未満でした。そこから、2009年以降に急激な増加が見られ、2022年には過去最高の221本が出版されています。

90年代や00年代はそこまで大きく注目されることがなかったけど、気候変動の影響が顕在化してきたことに加えて、おそらく2007年のIPCC第4次報告書や、2015年のパリ協定の流れを受けて、国際的に研究活動が活発化されてきたと推察できますね。

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研究大国はアメリカ

次に、トップ5の国を、論文数見てみましょう:

  • アメリカ:183本

  • 中国:116本

  • オーストラリア:80本

  • イタリア:68本

  • ドイツ:58本

アメリカと中国が1位・2位で、合わせて全体の約21%を占めています。排出量トップ2と同じ並びなのがなんとも皮肉なものですね。

また、著者らは、アフリカや南米はまだ国際的な研究ネットワークへの参加が限定的だということを指摘しています。最も気候変動の影響を受けやすい地域でありながら、研究の発信力という点では課題が残っているわけです。

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研究テーマはより具体的に変化

ここがこの論文の面白いところです。著者らは「テーマ進化分析」という手法を用いて、35年間の変遷を可視化しています。

1989〜2000年:黎明期

  • 主要テーマは「適応」「農業」「気候変動」の3つのみ

2001〜2010年:拡大期

  • 「気候政策」「バイオエネルギー」「生物多様性」「炭素隔離(carbon sequestration)」など、テーマが8つに増加

2011〜2020年:実践期

  • 「カーボンフットプリント」と「気候スマート農業(climate-smart agriculture)」が新登場。より具体的な測定や実践の方向へとシフト

2021〜2023年:現在

  • 「水不足(water scarcity)」「経済成長」「中国」といった、より具体的で地域に根差したテーマが増加

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キーワード分析:今、何が注目されているか

著者らが作成したワードクラウドによると、最も頻出するキーワードは以下のとおりです。

  • 食料安全保障 ← 最大

  • 適応

  • 持続可能性

  • カーボンフットプリント

  • ライフサイクルアセスメント

「食料安全保障」と聞くと、よく食料自給率の話になりますが、気候変動の視点で考えると、温暖化や降雨量の減少などで作物の収量が減ってしまうことで「人々が食べる量が減る」ので、非常に重要です。

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気候適応型農業とSDGs

気候適応型農業実践(CAAPs)

最後に、論文の後半では、気候適応型農業実践(CAAPs)が示され、その方法がどのようにSDGsの達成に貢献するかを明確に示しています。

そもそも、気候適応型農業実践(CAAPs)とは、「変化していく気候に対応しながら、持続可能な食料生産を実現する農業技術や手法」のことです。

似た言葉として「気候スマート農業(CSA)」がありますが、これとは、「より地域文脈に即した具体的実践に焦点を当てている」という点で異なります。「地域に応じて、気候変動の影響に負けない農業を!」がキャッチコピーです(シランケド)。

以下にCAAPsの具体的な手法を挙げておきます。

  • 品種改良(干ばつ耐性品種など)

  • 土壌管理(保全農業、不耕起栽培など)

  • 水管理(点滴灌漑、雨水貯留など)

  • 農林複合(アグロフォレストリー、混作)

  • 有機農業(有機肥料、輪作など)

  • 精密農業(センサー、ドローンなど)

気候変動に対して柔軟に適応していくための技術や手法てんこ盛りです。精密機器を使うものから、有機農業などの人手に頼るものまで、有効な施策が揃っております。ぜひまた今度詳しく調べて書きたいところです。

SDGsとの関連

そして、論文ではそのCAAPsが、みんな大好きSDGsと同関連するのかをまとめてくれてます。

  • SDG2(飢餓ゼロ):干ばつ耐性品種、保全農業により安定した食料生産

  • SDG13(気候行動)・SDG15(陸の豊かさ):アグロフォレストリー、有機農業による炭素固定

  • SDG1(貧困なくそう)・SDG8(働きがいも経済成長も):収量安定化、農村雇用創出

  • SDG5(ジェンダー平等)・SDG10(不平等なくそう):女性・小規模農家への支援

つまり、CAAPs は単なる「農業技術」ではなく、食料安全保障・気候変動緩和、適応・生計向上・社会的公平性を統合的に追求するアプローチだという訳です。

35年間の研究史をひっくるめて、まさに今、この課題に取り組むための武器が揃った、後はやるだけだという感じですね。昨年のCOP30でも「実装のCOP」ということが叫ばれていましたが、僕も椅子に座ってキーボードをパチパチ叩いて研究だけするんじゃなしに、何か泥まみれになりながら働いていかねばと思うばかりです。

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まとめ

  • 気候変動×農業研究は特に2009年以降に急成長

  • アメリカと中国が研究大国、アフリカ・南米はまだ発展途上

  • 研究テーマは「適応」から「気候スマート農業」など、具体的なアクションの方向へ進化

  • 「食料安全保障」が最頻出キーワード

  • CAAPsは経済・社会・気候を含んだ包括的なソリューション!

参考文献

Bal, G. R., Sethi, S. R., & Sharma, S. (2026). Climate-Adaptive Agriculture for Sustainable Futures: Unveiling Scientific Frontiers and Policy Directions. Sustainable Development, 0, 1–25. https://doi.org/10.1002/sd.70617

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