グリーンファイナンスと再エネのシナジー
いまはオーストリア、リンツの観光で歩き疲れ、マクドナルドで論文を読んでいます。なんでやねん。今日オーストリアに初上陸しましたが、あまり英語が通じないので、お店の前でGeminiに質問してドイツ語を3文くらい暗記してから入店してます。これがけっこう楽しいです。「こいつドイツ語喋れるで」と思われて、おばあちゃんに絡まれますが、それもまた良し。ウィーンでは英語は通じるそうですが、ドイツ語も続けていきたいです。
さて、そして今日は、グリーン成長の論文を読んでいきます。最近脱成長・ポスト成長に寄りすぎているので、金融ど真ん中、グリーンファイナンスでお口直ししていきましょう。
論文は「成長と持続可能性のバランス:資源国のためのグリーンファイナンスと再生可能エネルギーへの道筋」です。38カ国の資源国の20年以上のデータを分析し、「グリーンファイナンス」と「再生可能エネルギー」の経済成長への有効性を確かめてくれました。
この国々のデータにはサウジアラビアなどの「産油国」が含まれておりまして、彼らは "豊か" のように見えますが、実際は「資源の呪い」なるものに悩まされています。それも「グリーンファイナンス」たちが一役買ってくれるそうです。ではいきましょう。
「資源の呪い」
はじめに「資源の呪い」の復習から始めていきましょう。サクッとまとめると以下の3つです。
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経済的腐敗:資源の輸出で外貨を大量に稼ぐと、相対的にその国の通貨価値が上がる。それによって、製造業や農業などの他の産業の輸出が滞り、国内産業が育ちづらくなる。結果として、国家経済は資源輸出だけに依存してしまい、他の産業が未成熟のままになる。
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政治的腐敗:資源から得られる莫大な利益をめぐって、政治家や一部の特権階級が群がる。時として、汚職や腐敗の温床となり、健全な経済発展を妨げる。
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環境破壊:目先の利益を優先した結果、持続不可能な形で資源採掘が行われ、森林伐採・水質汚染・土壌汚染などが発生する。
この「呪い」にかかると、短期的には莫大な富を得ながらも、長期的には貧困や格差、環境破壊を招いてしまいます。1960年代のオランダで天然ガスが発見され、その輸出拡大を進めたことで国内製造業が衰退化したことから、「オランダ病」とも呼ばれております。
「グリーンファイナンス」で呪いを祓う
次に、この呪いへの対処法として、グリーンファイナンスを見ていきましょう。
これは、環境や社会に良い影響を与えるプロジェクトに、優先的にお金を流す仕組みのことです。銀行が、再生可能エネルギー事業への融資金利を優遇したり、投資家が、環境対策に積極的な企業の株(ESG投資)を購入したり、といったことです。
エネルギーという観点で考えると、太陽光や風力、水力といった、再生可能エネルギーに対する投資のことを指しますが、資源国にとっては、自らの経済を支える柱を揺るがしかねない、困難な決断を迫られます。「呪い」を祓うためにも痛みが必要なわけです。
「再エネ」もコンボにする
そこで論文は、「グリーンファイナンス」に加えて、「再エネ」の導入も進めることができれば、さらなる正のシナジーが生まれるということを証明しています。
研究チームは、各国の環境負荷を総合的に示す「エコロジカル・フットプリント」という指標を用いて、政策の効果を測定しました。
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グリーンファイナンス:持続可能な投資が1%増えると、エコロジカル・フットプリントは0.84%減少する。
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再生可能エネルギー:再生可能エネルギーの割合が1%増えると、エコロジカル・フットプリントは0.27%減少する。
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シナジー:グリーンファイナンスと再エネ政策を同時に実施すると、グリーンファイナンス単体の効果が110%増幅される。
なるほど、それぞれ単体でも環境負荷が下がることは明確で、さらに両者を同時に行うと、グリーンな投資が2.1倍になるということですね。このシナジーが生まれる理由は、以下のように説明されます。
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グリーンファイナンスは、再エネに必要な資金を供給し、技術開発とインフラ整備を加速させる。
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再エネの普及は、グリーンファイナンスにとって魅力的な投資先となり、さらに多くのお金を引き寄せる。
つまり、グリーンな投資によって再エネの技術とインフラがパワーアップし、再エネがパワーアップしてるからさらに投資を呼び込めるという訳です。
少し脱線すると、これまで僕の記事では、ポスト成長的な「物質とエネルギーの消費量を削減しつつ幸福度を保つ」というビジョンを示してきました。しかし、グリーンファイナンスによってエコフットが減少しているというデータをしっかりと明示してくれたという点で、「グリーン成長」的なビジョンもいい感じだとわかりますね。もちろん、この数値では足りないというのがポスト成長派閥の意見ですが、こういうのもインプットしておきたい。
政策の効果はいつ出るか
この論文は、さらに「時間軸」という視点を導入し、それぞれの政策が効果を発揮するまでの「タイムラグ」を明らかにしました。
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再生可能エネルギー:効果は比較的早く現れる。約3年で統計的に有意な効果が見え始め、4年以上でその効果が最大化する。太陽光パネルを設置すれば、その日からCO2排出が減るという、直接的な効果を反映している。
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グリーンファイナンス:効果が現れるまでには、長い時間が必要。5年以上経ってから効果が有意だと認められる。そして、その効果が最大化するのは7年以上かかる。金融市場の資金が、実際にインフラ投資に繋がり、それが環境改善効果として現れるまでには、長い時間がかかることを示している。
まとめると、政策の観点で短期的な成果を求めるなら再生可能エネルギー、長期的で大きな変革を目指すならグリーンファイナンス、という戦略的な優先順位付けが重要だとわかります。
グリーンファイナンスのグラフを確認すると、複利でじわじわ効いてくる効果の出方をしており、さすが金融的解決策だという印象を受けました。効果は3年やそこらでは見えてきませんが、長期的に考えて得なのは間違いなさそうです。
産油国と非産油国
論文は、「資源国」の中でも、産油国と非産油国の性質上の違いを指摘し、同じ「資源の呪い」に陥っており「環境先進的」になりたい国だとしても、その対処法が変わってくると分析しています。
両者の強み・弱みを理解することで、国を見るレンズが変わってきます。
産油国
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強み:豊富なオイルマネーがあるので、グリーンファイナンスに対するの感度も高い。お金を投じてくれさえすれば、環境改善効果も出やすい。
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弱み:化石燃料産業という、強力な既得権益が存在する。そのため、再生可能エネルギーへの転換に対する「制度的な抵抗」が非常に強く、政策の効果が出にくい。
つまり、資金力的には「グリーンファイナンス」に取り組む体力は十分にあるが、「再エネ」を進めるには既得権益「オイル」が強大すぎる、ということです。
非産油国
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強み:産油国のような強力な既得権益がないため、再生可能エネルギーへの転換は比較的スムーズに進む。
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弱み:資金力が乏しいため、グリーンファイナンスを自前で動かす力が弱い。国際的な資金援助や技術移転が不可欠。
こちらはその逆で、「グリーンファイナンス」を進める体力が無いが、「再エネ」への移行にしがらみは無い、ということです。
この分析からわかるのは、「資源の呪い」を解くためには、その資源国の性質に応じたオーダーメイドの戦略が必要だということです。石油への依存度から政治体制、技術レベル、資金力など、各国の置かれた状況を理解し、政策決定をする必要がある訳です。
ひといきに「シナジー!」と言っても、なかなかハードルも高そうだということがわかりました。
まとめ
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資源の呪い:豊富な資源が、経済的・政治的腐敗、環境破壊を引き起こす。
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グリーンファイナンス1%増で、エコフット0.84%減
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再エネ1%増で、エコフット0.27%減
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短期的効果は再エネ(3-4年)、長期的効果はグリーンファイナンス(5-7年以上)
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産油国はお金あるけど既得権益でかい
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被産油国はお金ないけど既得権益小さい
P.S. ウィーンに着いて翌日に熱が出て丸1日寝込んでました。季節の変わり目気を付けて。ウィーンはすごくきれい。
参考文献
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Zhu, G., Qi, L., Shao, H., & Asif, M. (2025). Balancing Growth and Sustainability: Green Finance and Renewable Energy Pathways for Resource‐Rich Economies. Natural Resource Modeling, 38(4), e70012.
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