藻がアツい
やっとテストが終わりました。1学期とは打って変わって、今回はけっこう手応えを感じられました。留学からはや1年が経つところで、成長をしみじみと感じております。
さあ、今回は「藻」です。この2学期でも、新しいエネルギー源としてかなり注目されていると学びました。例えば、過去問で「Algae are the future because~」と書いてあって、「廃棄物を資源として再利用できる・食料と競合しない・エネルギー密度が高い」と3つ回答したり、「Algae are not the future」に対して、「エネルギーの投資対効果が低い・商業的に未成熟・技術的な問題がある」なんてことを回答したりしました。
総じて、まだ研究段階なので問題は色々あるけども、かなり有望だということです。
そこで今回は、2025年12月に出版される「微細藻類生産における脱水・乾燥エネルギー要件のレビュー」というレビュー論文を読んで、その可能性をまとめていく所存です(Sophie Kendler et.al., 2025)。
地球を救う「スーパー藻類」
はじめに、まずは全体像のお話です。大学院(バイオエコノミーコース)では、主に「バイオ燃料」の原料として学びましたが、「スーパーフード」としての側面もあります。ドイツには「スピルリナ・プロテイン」なるものがあり、タンパク質だけでなくオメガ3脂肪酸やビタミン・ミネラルが豊富です。味は、生臭い青のりって感じで、美味しいとは言えません。

激マズ スピルリナ・プロテイン
注目を集めている理由をまとめると、以下になります。
-
光合成によってCO2を吸収してくれる。
-
限られた土地で大量のバイオマスを生産。
-
良質な脂質、高品質なたんぱく質、抗酸化物質が豊富。
そのため、サケの養殖飼料から、栄養豊富なサプリメント、バイオジェット燃料、化粧品まで、あらゆる産業で重宝されるポテンシャルを秘めております。
「藻」が製品になるまで
それでは、藻類が製品になるまでのプロセスを見てみましょう。
-
培養:太陽光、水、CO2を栄養に、プールのような試験場や、ガラス管の中で大量に増殖させる。
-
収穫:培養液の中から、小さな藻の細胞だけを回収する。
「藻」の問題点
そして、早くも生産時の最大の難関がここにあります。培養液の中の藻の濃度は、わずか0.1%程度で、残りの99.9%はただの水です。オリンピックプールの水の中から、スプーン一杯分の抹茶を取り出すようなイメージです。
その難関を2つの方法で乗り越えます。
-
脱水:遠心分離機やフィルターを使って、99.9%の水を取り除き、ペースト状にする。
-
乾燥:残った水分を熱で蒸発させ、粉末状にする。
問題は、この「脱水」と「乾燥」のプロセスで大量のエネルギーを消費することです。ある試算では、藻製品の総生産コストの70〜75%が、この2つの工程に使われていると言われています。これでは、技術的に可能でも、商業的には採算が合わないということになってしまいます。
藻ビジネスを拡大するためには、このボトルネックを解決する必要があります。
エネルギーコストを削減する4つの方法
夢の資源と謳われるこの藻を実用化するためには、このエネルギーコストをなんとか減らさないと行けないぞ、ということで、色んな方法が試されております。
大規模工場との併設
火力発電所やセメント工場、製鉄所は、大量のCO2を含んだ排気ガスと、冷却に使った後の温排水を、毎日大量に捨てています。藻の生産には、光と水とCO2が必要なので、それを繋げてしまおうというシンプルな発想ですね。
-
発電所の隣に、藻の培養プラントを建設する。発電所から出る排気ガスをパイプで送り、藻の「エサ」にする。→ CO2削減!
-
また、発電所のタービンを冷やした後の、温排水を「培養」に利用する。→ 水資源の活用&加温コスト削減!
-
発電所の廃熱を「乾燥」に利用する。→ 乾燥エネルギーコスト削減!
実際、ノルウェーでは、シリコン工場の排ガスと廃熱を利用して、海洋性珪藻(けいそう)という藻を大量培養し、サケの養殖飼料として商業化するプロジェクトが実現しています。
これは、藻の産業だけでなく、CO2を大量排出する重工業にとっても、排出量を削減に貢献できるモデルだということです。カーボンプライシングが来年2026年から日本でも本格導入されるということで、結構良いチャンスなのではと思っております。
熱の再利用
藻の乾燥工程では、熱風で水分を蒸発させ、湿った空気を工場の外に排出します。しかし、この「排気」には、まだ「熱」が残っているので、最後まで搾り取ろうという戦略です。
-
排熱の再循環:排気の一部を、新鮮な空気と混ぜて、再び加熱して乾燥機で利用する。これにより、ゼロから熱を作るよりも、エネルギーを節約できる。
-
ヒートポンプの統合:ヒートポンプは、少ない電力で、空気中や水中の「低温の熱」を汲み上げ、高温の熱に変換する機械で、エアコンと同じ技術。藻の乾燥機から出る「湿った生暖かい排気」から熱を回収し「乾燥用の熱風」を再度作り出す。エネルギー消費を60〜80%も削減できる可能性がある。
脱水と乾燥のコンボ
3つ目は、それぞれのプロセスを独立して行うのではなく、プロセス全体のエネルギー消費を最小化するコンビネーションを見つけ出すことで解決する方法です。
「乾燥」は「脱水」の1000倍ものエネルギーを必要とするので、基本は「できる限り『脱水』工程で水分を取り除き、『乾燥』工程の負担を減らす」ことが、このコンビネーションで重要です。
-
解決策:まず遠心分離でペースト状にし、それをドラム式のドライヤーで薄く延ばして一気に乾燥させる。この組み合わせは、ドライヤー単体よりも、結果的に全体のエネルギーコストを下げられる可能性がある。
藻は、前述の通り、バイオ燃料、サプリメントなどの用途があります。製品によって、求められる品質は異なるので、品質を損なわない範囲で、最もエネルギー効率の良い技術の「コンボ」を設計するのが鍵です。
乾燥しないで使う
最後の方法は「全ての用途で、本当に乾燥させる必要があるのか?」を問い直すことです。
-
植物の成長を促す「バイオ・スティミュラント(生物刺激剤)」として使う場合や、二枚貝の養殖用の液体飼料として使う場合、ペースト状のままでも問題ない。
乾燥しなくて良い製品の場合は、「乾燥」の工程をスキップすることで、エネルギー・コストの問題を解決し、良いところだけを活かすことができます。
まとめ
さあ、藻の可能性に関する論文でしたが、大部分はエネルギー・コストがネックであり、そこをいかに解決するかということに集中していました。
逆に言うと、そこさえ解決できれば、かなりポテンシャルが高いということを示しています。
-
「藻」はバイオエネルギーにも、高機能食品にも飼料にもなる
-
ボトルネックは「脱水・乾燥にエネルギーが必要で、総コストの70%を占める」
-
「重工業との連携、熱の再利用、最適な組み合わせ、未乾燥」で効率化できる
以上のことを踏まえると、エネルギー問題・食糧問題という世界経済の中心的な問題を解決に導くことができそうですね。
僕がドイツで「バイオエコノミー」を専攻して1年ですが、持続可能な農業や自然科学、経済学を学んだ中で、一番可能性を感じた分野も「藻」でございます。
もちろん、この藻ビジネスを実現するためには、技術的な課題も山積みですし、企業間の協力、政策的な後押しなど、多くのハードルがあります。しかし、技術に関しては、今回の論文が示す通り、道筋が見えており、あとはコツコツ進めるだけという段階に至っております。
工場の廃熱で育った藻を食べた「サステナブル・サーモン」や、「藻・バイオ燃料」で走る車など、けっこう楽しみなことが増えました。
参考文献
-
Kendler, S., Magnanelli, E., Bless, M., & Nordtvedt, T. S. (2025). A Review of Dewatering and Drying Energy requirements in Microalgae Production: Pathways towards industrial uptake and bioeconomy integration. Cleaner and Circular Bioeconomy, 100184.
すでに登録済みの方は こちら