排出権取引の基本を頑張ってまとめたから見て
これは、環境経済学における雷槍くらい強いやつなので、
その基礎についてアカデミックにまとめていきやしょう。
排出権取引制度とは、
国が排出量の上限を設定して、企業がその範囲内で排出権を売買できる、
温室効果ガスの排出量を削減するために、市場の原理を活用した仕組み。
重要なのは、「国が排出量の上限を設定」するというところですね。
こちらは別の言い方で「キャップ・アンド・トレード」と言われるもので、超えてはならないカロリーを先に設定して、その中で食事を摂る感じ。
どれだけにゃん達が可愛くおやつを貰いにきても、上限カロリーを超えてはなりません。
いや、にゃん達の場合はいいですが、排出権取引の場合はダメです。
起源は、
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2000年:欧州委員会が「欧州連合内の温室効果ガス排出量取引に関するグリーンペーパー」を発行し、EU全体で「キャップ・アンド・トレード」を実施するかの議論開始。
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2003年:京都議定書で温室効果ガスの削減目標が初めて定められ、排出権取引ありちゃうかってなる。
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2005年1月1日:EUで開始 (Ellerman, Marcantonini, & Zaklan, 2016)
てな感じで、もう20年前になるんですね〜。
僕が4歳の時なんで、ゲゲゲの鬼太郎めっちゃ好きだった時ですね。
他の国を見ていくと、
2024年4月10日の時点で、世界で36の国や地域で排出権取引が実施されてます(ICAP, 2024)。
アメリカの複数の州や、中国、ドイツ、カザフスタン、メキシコ、ニュージーランド、韓国、スイス、イギリス、日本でも東京都や埼玉県では実施してますね、東京都は2010年、埼玉は2011年からやってるそう、すげえ知らんかった。
世界のCO2 9.9ギガトン、温室効果ガスの18%が排出権取引下にあり、これは世界のGDPの58%に当たるということです。
そして、14の排出権取引が開発中で、さらに8件が検討中とのこと!
(ICAP, 2024←去年ですがこれが今の最新っす兄貴!かなり視覚的で読みやすいのでぜひ)
まだまだGHGの捕捉率は20%弱か〜とは思いつつも、これからもたくさん出てくるわけなんですね〜、いいぞ〜がんばれ〜。
メリットは、
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柔軟性:企業は排出量の削減と排出枠の購入のどちらかを選択できるので、より効率的になる。
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技術革新の促進:企業はより排出量の少ない技術への投資を増やすことで技術が発展する。
1. 柔軟性に関して、シンプルな環境税は「税金かかるし、うちの工場も排出100tから50tに減らそ〜」っていう動機のみですが、
排出権取引の場合は、「100tから50tて今年はもうあかんなぁ。大輔くんとこの排出権買わせて〜な〜」っていう選択肢も出てくるわけです。大輔くんは早くから真面目にCO2減らしていってたので得にもなる訳です。
2. 技術革新の促進に関して、こちらも環境税と並んで重要なメリットですね。
2004~2015年の中国の上場製造企業のSO2に関する、排出権取引とイノベーションレベルと生産性向上について調べた研究では、
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イノベーションレベルが 42.2% 増加した
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イノベーション促進の効果は中小企業の方が14.6%高い (Tang et al., 2020)
とのことで、これはすごいわかりやすい効果ですねえ。「中小企業の方が環境に対して敏感だったり、市場で生き残るために多額の投資をしているようだ」と推測してますね。
しかし、この研究では、
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企業のイノベーションを大幅に促進したが、企業の生産性には大きな影響がなかった。
ということで、生産性に関してはまた別に資源の配分など複数の問題があるそうです。
デメリットは、
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排出権価格が変動する:炭素排出枠の価格は変動しやすいので、長期投資を計画している企業にとっては不確実なことが多い
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実装が複雑すぎ:上限設定、排出枠の割り当て、市場管理などを慎重に決定する必要があり、多くの人的・経済的リソースが必要になる。
1. 排出権価格が変わるに関して、全体の排出量が減ると排出権の価格は下がり、逆に排出量が増えると排出権の価格が上がるというシンプルな原則なもと、一定の変動をするそうで、
また、投資に関しても、
安定した価格シグナルがなければ、企業は排出量を削減するために投資決定を変更する強いインセンティブを持たない可能性がある。
ということで、僕もこの辺はよくわかりませんが、長期的な投資のインセンティブが大事なのねーなるほどねーと。
この問題に対して、日本政府もやるよ〜って言ってたことですが、排出枠価格の上限・下限、安全弁を作ることが有効とのことです(Jacoby & Ellerman, 2004) ←この論文は排出権取引の価格変動に関する超重要なものですね、なにせEUの取引スタート(2005)の前に出版されている、、。
2.実装が複雑と、これは大学院の授業でやりました。じゃあたぶんこれが1番大事なポイントですね。移行コストと、ランニングコスト、監視コスト、これらが大変だと。
まあそりゃあ市場をイチから作る訳ですから大変ですよねえ。
Narassimhan et al., (2018)さんは、5つの評価軸として以下のものを挙げています。
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環境効果
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経済効率
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市場管理
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収益管理
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利害関係者の関与
そして、各カテゴリー内で、
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削減コスト
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上限の厳格さ
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割り当て慣行の改善
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価格安定
これらを見ていく必要がある訳ですねえ。
論文内では8つの排出権取引についてレビューしていたんですが、さすがに僕ももう疲れてきたので、この辺でご勘弁を。
とにかく、排出権取引の制度を作んのめっちゃ大変ってことです。
まとめ
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排出権取引とは、国が排出量の上限を決めて、その中で排出権を取引できまっせ。
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2005年にEUで始まって、今は36個の市場がある。
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柔軟でイノベーションを促せるが、価格変動と実装が大変。
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1記事4000文字は多い。誰が読んでんねん。
参考文献
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経済産業省, (2025年2月25日),「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました, https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250225001/20250225001.html
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Ellerman, A.D., Marcantonini, C., & Zaklan, A. (2016). The European Union Emissions Trading System: Ten Years and Counting. Review of Environmental Economics and Policy, 10, 89 - 107.
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ICAP (2024). Emissions Trading Worldwide: Status Report 2024. Berlin: International Carbon Action Partnership.
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Jacoby, H. D., & Ellerman, A. D. (2004). The safety valve and climate policy. An Economic Analysis of Climate Policy: Essays in Honour of Andries Nentjes, 32(4), 481–491. https://doi.org/10.1016/S0301-4215(03)00150-2
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Long, X., & Goulder, L. H. (2023). Carbon emission trading systems: a review of systems across the globe and a close look at China’s national approach. China Economic Journal, 16(2), 203–216. https://doi.org/10.1080/17538963.2023.2246714
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Narassimhan, E., Gallagher, K. S., Koester, S., & Alejo, J. R. (2018). Carbon pricing in practice: a review of existing emissions trading systems. Climate Policy, 18(8), 967–991. https://doi.org/10.1080/14693062.2018.1467827
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Tang, Hl., Liu, Jm., Mao, J. et al. The effects of emission trading system on corporate innovation and productivity-empirical evidence from China’s SO2 emission trading system. Environ Sci Pollut Res27, 21604–21620 (2020). https://doi.org/10.1007/s11356-020-08566-x
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Zhang, X., Löschel, A., Lewis, J., Zhang, D., & Yan, J. (2020). Emissions trading systems for global low carbon energy and economic transformation. Applied Energy, 279, 115858. https://doi.org/10.1016/j.apenergy.2020.115858
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