脱成長は実現不可能だし、不必要だ。
ブロック授業が大変です。1日6時間授業を週に4日、それを3週間続けます。最終学期のはじめ1か月で単位を取って、あとは修士論文に集中してくれということだと思いますが、さすがに座り過ぎでお尻と腰が痛い。目も痛い。修行です。
さてさて、今回は「エコロジー経済学」や「サステナビリティ界隈」の注目する「脱成長」という概念に対して、とんでもない角度からクリティカルヒットを放った最新論文を紹介します。
今回扱うのは、2026年に『International Review of Applied Economics』で発表した、「気候安定化は経済成長の終わりを意味するのか? 脱成長仮説の批判的評価」です。
脱成長論者が主張する「気候変動を止めるためには脱成長が現実的であり、必要不可欠であり、そして必然である」という3つの大前提(脱成長仮説)を、マクロ経済モデルやエネルギーデータをゴリゴリに使って、がっつり検証・反証してくれた、めちゃエキサイティングな内容になっています。
そもそも「脱成長」とは?
以前、「グリーン成長 vs 脱成長」や「脱成長と不況の違い・具体的な政策」などの記事でも紹介しましたが、まずはサクッと復習しておきましょう。
脱成長陣営のコアにある主張は、「地球の物理的限界(プラネタリーバウンダリー)を守るためには、先進国のGDPを持続的かつ計画的に縮小させるしかない」というものです。
特に気候変動文脈では、「経済成長したまま温室効果ガスを減らすこと(絶対的デカップリング)は、スピード的に間に合わないやん」というのが彼らの最大の論拠となっています。
しかし、今回の著者のハンセンさんは、この脱成長界隈の主張が以下の3つの「仮説」に依存していると整理し、それぞれをバッサリと検証しました。
実現可能性(Viability):脱成長は、政治的・経済的に現実的な戦略か?
必要性(Necessity):気候目標(1.5℃〜2℃目標)達成のために脱成長は本当に必須なのか?
不可避性(Inevitability):再エネへ移行すると強制的に脱成長になってしまうのか?
さあ、何が起きてるんでしょうか。上から順番にダダダッと見ていきましょう。
1. 脱成長は「現実的」なのか?
脱成長論者の多くは、「途上国(グローバルサウス)にはまだ成長する権利があるし、貧困脱却のために成長が必要だ。だから先進国だけが経済縮小すべきだ」と主張します。
まさにこれが僕もこのレターで言ってきたことです。しかし、これを実際の数字に落とし込むと意外と良いものじゃないんだよと言います。
著者は、気候目標を達成しつつ、世界全体で「ゼロ成長」または「軽度の脱成長(-1%)」を実現するには、各国のGDPがどうなるかをシミュレーションしました。
以下に内容をどうぞ。
ゼロ成長シナリオ
途上国が今のままのペースで成長を続けると仮定した場合、世界全体をゼロ成長に保つためには、先進国(アメリカ、ドイツ、日本、イギリスなど)のGDPは2036年までに半減し、2045年にはマイナスにならなければ計算が合いません。
途上国の成長を制限した場合
途上国の成長を「世界平均」まででストップさせたとしても、先進国のGDPは2050年までに50%も縮小する必要があります。
50%のGDP縮小をどういうことかと言いますと、歴史的な大不況である世界大恐慌で約18%減、リーマンショックで約3%減、コロナ禍で約6%減です。50%縮小というのは、ソ連崩壊後のロシア経済の落ち込み(47%減)に匹敵するんだとか。
しかも、この「途上国の成長を制限するシナリオ」では、グローバルサウスの代表格である中国やブラジルにまで凄まじい影響が出ます。中国の経済は即刻成長を停止し、その後は6%縮小していく。ブラジルも2032年には成長がストップすることになります。
つまり、これを「民主的な政治プロセス」で実現できるかというと、ほぼ不可能ということです。「先進国だけちょっと我慢して途上国に譲ろうよ」というレベルの話ではなく、先進国の経済が半分になるレベルの縮小を受け入れない限り、地球全体のゼロ成長は達成できないわけです。
2. 脱成長しないと間に合わないのか?
それでも、「経済が成長し続けたら絶対にCO2の削減スピードが間に合わないから、脱成長は『必要』なんだ!」というのが脱成長陣営の2つ目の主張です。
著者は、「彼らの計算方法にはトリックのようなものがある」と指摘します。脱成長論者は、必要なデカップリング率(GDP成長とCO2排出の切り離しを年間何パーセント進めるべきか)を計算する際に、「指数関数的減少」のモデルを使います。
しかし、毎年定率でCO2を減らそうとすると、最初の数年の削減負担がバカでかくなり、「年率14%も削減しなきゃいけない!(Hickel, 2021)」という極端な結論になりがちです。
一方で、著者が使っているのは、IPCCなどと同じ「直線的減少」という自然なモデルで計算し直した結果、以下のようなことがわかりました。
必要なデカップリング率は、脱成長論者が煽るほど高くはない。
(最初の数年は指数関数モデルより約4%も負担が下がる)。再エネ投資と「省エネ」の効果を過小評価しすぎている。
実は、太陽光や風力などのクリーンエネルギーへの移行に必要な投資額は、様々なモデルの推計で世界GDPのわずか1.5%〜3.8%程度にすぎません。しかも、エネルギー効率のポテンシャルが半端じゃないのです。
例えば、米国電力会社のデータでは、新しく再エネを発電するコストと、省エネプログラムによって「電気を使わなくする」コストを比較すると、省エネは再エネ新設の半分以下のコストで済むということです (Goldman, 2020)。
IEA(国際エネルギー機関)のシナリオでも、経済が年率2.7%成長してもエネルギー需要は年率0.5%縮小していくという未来が明確に描かれています (IEA, 2024b)。
ここに対しても、脱成長論者は「再エネへの移行は、効率が上がるとかえって消費が増える問題(ジェボンズのパラドックス)や、重要鉱物(リチウムやコバルトなど)の枯渇問題などがあるから不可能だ!」と批判を重ねます。 そうだそうだ。
しかし著者によると、これらの懸念も「対策可能だ」と言われます。
例えば、マクロレベルのリバウンド効果で相殺されるのはせいぜい50%程度であり(Brockway et.al., 2021)、適切な環境税などを組み合わせればこのリバウンドは低コストで抑えられます。
重要鉱物問題も、リサイクル率の大幅な向上やテクノロジーの進化によって、新規採掘量を2050年までに25〜40%削減できるという予測が出ています(IEA, 2024a)。
つまり「課題はあるが、システムの改善で十分に乗り越えられる」ということです。これでデカップリングは間に合うんだと主張します。
3. 再エネにしたら成長できないのか?
最後の主張は、「再エネは化石燃料に比べてエネルギー収支(EROI)が低いから、再エネ社会になれば必然的に経済成長は止まる」というものです。
EROIとは、「1のエネルギーを得るために、どれだけのエネルギーを使うか」という指標です。例えば、石油は地面を掘るだけでドバドバ出ますが、太陽光パネルを作るのには大量のエネルギーが要るやん、という話ですね。
一部の脱成長論者は「EROIが11:1を下回ると経済成長は維持できない。再エネはこれを下回るらしい」と危惧してきました。
しかし、ここにも著者は決定的な反証をたくさん投下してきます。
風力や太陽光のEROIは普通に11を超えている:100本以上の研究データを集めた大規模なメタアナリシスの結果、風力の平均EROIは約34 (Kubiszewski et.al., 2010)。太陽光技術の多くも11を大幅に超えている (Bhandari et.al., 2015)。
「化石燃料のEROI」の方が実は低い説:最新の研究(Brockway et.al., 2019)では、化石燃料のEROIは、最終的に消費者に届く時点ではなんと「6:1」程度しかないことが分かっている (Brockway et.al., 2019)。
これは、化石燃料はシステム上で燃やす過程において、エネルギーの大半が「排熱」として無駄に捨てられてしまうからだということです。そもそもEROIをコスト指標にするのはズレている:エネルギーが経済を支えるかどうかは、EROIの数字遊びではなく「コスト(LCOE:均等化発電原価)」で見るべき。
過去10年で太陽光のコストは80%、風力は約70%も下がっており、もはや化石燃料より安い地域が大半になってきています。 つまり、「再エネに行けば経済は成長できなくなる」という主張には実証的な根拠がありませんし、データにも明確に逆行しているというわけなんですねえ。
まとめ
さて、だいぶ熱くなってしまいましたが、今回の論文のエッセンスをダダダっとまとめます。
途上国の成長を進めながらグローバルに脱成長を実現しようとすると、先進国経済は50%以上の縮小になる。
「毎年定率で減らす」という指数関数のトリックを外せば、排出削減のスピードは再エネ化と省エネの加速で十分に達成可能。
再エネは効率が悪くて成長できなくなるという「EROI神話」はデータによって完全に否定されている。
結論として、気候変動の解決策として「脱成長」を政策の前提に据えるのは政治的にも数字的にも破綻している。
最後に僕の感想ですが、イタタタと思う箇所はいくつもある一方で、やはり議論が平行線で噛み合ってない感じがしております。
1つ目の「世界をゼロ成長に保つためには先進国のGDPを半分にしなければならない!」は、GDP自体の増減を目的化していますが、それよりかは、「社会・生態系を回復させよう、その副反応として経済価値だけを捉えるGDPは減っちゃうかも知れない」みたいなニュアンスだと思います。
2つ目の「グリーン成長でも間に合う!」に関しては、正味どっちもどっちです。ここは技術に関して「楽観的」or「悲観的」ってだけなので、どっちも科学的ですが根本の思想・哲学が違うってことでスルーします。
3つ目の「再エネで成長して環境も良くなる!」に関しては完全に合意です。これはヒッケルさんも言ってたはずですが、「選択的・段階的脱成長」という概念が大事です。化石燃料産業を脱成長させて、再エネ産業は成長したらええやないかいということです。
とにかく、この論文は、以下に挙げるような経済成長系の参考文献が豊富でおもしろかったです。これらを読み返しつつ、凝り固まったフィルターバブルを抜け出していく努力をしたいところです。
参考文献
Bhandari, K. P., Collier, J. M., Ellingson, R. J., & Apul, D. S. (2015). Energy payback time (EPBT) and energy return on energy invested (EROI) of solar photovoltaic systems: A systematic review and meta-analysis. Renewable and Sustainable Energy Reviews, 47, 133–141. https://doi.org/10.1016/j.rser.2015.02.057
Brockway, P. E., Owen, A., Brand-Correa, L. I., & Hardt, L. (2019). Estimation of global final-stage energy-return-on-investment for fossil fuels with comparison to renewable energy sources. Nature Energy, 4(7), 612–621. https://doi.org/10.1038/s41560-019-0425-z
Brockway, P. E., Sorrell, S., Semieniuk, G., Heun, M. K., & Court, V. (2021). Energy efficiency and economy-wide rebound effects: A review of the evidence and its implications. Renewable and Sustainable Energy Reviews, 141, 110781. https://doi.org/10.1016/j.rser.2021.110781
Goldman, C. A., Hoffman, I., Murphy, S., Mims Frick, N., Leventis, G., & Schwartz, L. (2020). The cost of saving electricity: A multi-program cost curve for programs funded by U.S. utility customers. Energies, 13(9), 2369. https://doi.org/10.3390/en13092369
Hansen, T. A. (2026). Does climate stabilization mean the end of economic growth? A critical assessment of the degrowth hypothesis. International Review of Applied Economics.
International Energy Agency. (2024a). Recycling of critical minerals. https://www.iea.org/reports/recycling-of-critical-minerals
International Energy Agency. (2024b). World Energy Outlook 2024. https://www.iea.org/reports/world-energy-outlook-2024
Kubiszewski, I., Cleveland, C. J., & Endres, P. K. (2010). Meta-analysis of net energy return for wind power systems. Renewable Energy, 35(1), 218–225. https://doi.org/10.1016/j.renene.2009.01.012
Hickel, J. (2021). Less is more: How degrowth will save the world. Windmill Books.
(ジェイソン・ヒッケルの著書『資本主義の次に来る世界』
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