富裕層に、飛行機・車・肉を減らしてもらうよう頼みたいの会。
さて、ドイツに戻ってまいりました。桜が咲いてて、鳥が鳴いてて、田舎街はとても心地よいです。春休みのはずですが、ゆっくりもしてられず、授業1個と修論が始まります。すごい楽しくて仕方ないです。みなさんも新年度、楽しんでください。
レターは、面白い論文を見つけ次第、コツコツ続けていきます。
さて、今回は「環境負荷って誰が無茶苦茶かけてるの?」という問いに答えてくれる論文を紹介します。
今回扱う論文は、2026年3月に出た『充足‐成長とオーバーシュートから、知足へ (Sufficiency – From Growth and Overshoot to Enoughness)』という書籍の1章として書かれた、「過剰消費からプラネタリー・バウンダリーの尊重へ」という論文です。世界の所得階層別の環境負荷について、膨大なデータをもとに、がっつりレビューしてくれた良い論文です。
地球の限界と「足るを知る」
復習しておくと、今回の記事の大事なキーワードは2つあります。
1つ目はプラネタリーバウンダリー。地球の物理的な限界のことですね。以前の記事でも紹介しましたが、これ以上地球をいじくり回したら生態系が崩壊してしまうリミットのことです。すでに9つの限界のうち7つが突破されている激ヤバな状況です。
2つ目は、今回のメインテーマでもあるSufficiency(サフィシエンシー)。充足(足るを知る)という概念です。脂肪50%offのマヨネーズに変えてエコだと言うんじゃなくて、そもそもマヨネーズかける量自体をほどほどに減らそう、みたいなことです。
つまり、効率(Efficiency)を良くすることばかりを追い求めるのではなく、消費の絶対量を減らして地球の限界内に収めようという戦略ですね。
環境負荷を決める、IPATの方程式
本題に入る前に、なぜ「豊かな国の人たち」をターゲットにするのかについて触れておきましょう。
環境学の世界には、IPAT方程式という有名なモデルがあります。
環境負荷は、「人口 × 豊かさ × 技術」の掛け算で決まる、というものです。
これまで、多くの環境政策はこの中の「技術」に頼ってきました。「もっと燃費の良い車を作ればいいやん!」というやつですね。最近で言うと、「AIの電力効率が上がってる!グリーン!」的なやつです。
でも、効率が良くなると値段が下がって、結局みんなが消費を増やしてしまうという罠に陥ってきたわけです。いわゆるジェボパラです(ジェボンズのパラドックス)。
そこでSufficiencyが直接メスを入れるのが「豊かさ」のパラメーターです。「十分な豊かさとは何か」を問い直し、過剰な豊かさを意図的に削っていくというアプローチです。
世界の人口を7つの階級に分けてみよう
著者たちは、世界の人口を所得レベルで7つの階級に分類しました。「超富裕層(トップ1%)」「富裕層(トップ10%)」「消費層」「充足層」「困窮層」などにおおまかに分かれます。
僕たちが目指すべき2030年の気候変動目標から逆算すると、地球の限界を守るための1人あたりの二酸化炭素排出量は、年間2.5トンまでにする必要があります (Akenji et.al., 2021)。
では、トップ1%の超富裕層はどれくらい出しているのでしょうか?以下にデータをズドン。
超富裕層(トップ1%)は年間 “200〜320トン” のCO2を排出
そのうち、飛行機での移動だけで年間 “35トン” を排出(アメリカでの推計)
一番下の困窮層は年間たったの “0.1トン”
ひぇぇ。目標 “2.5トン” に対して、飛行機だけで “35トン” です。ちょっとケタが違いますね。プライベートジェットなんか乗り回してたらそりゃこうなりますね。
実際、世界の排出量の半分はトップ10%の富裕層が引き起こしており、極限のトップ1%だけで下位66%の貧困層と同じだけの膨大な排出をしているそうです (Khalfan, A. et.al., 2023)。「人類が地球を破壊している」としばしば言われますが、これを「人類」とひとくくりにするのはフェアではありませんね。
北米のトップ10%は平均 “50トン” を排出する一方、インドの超トップ層(アメリカと同じ所得層)でも同じ排出量なのは全人口のたった “2%” に過ぎず、国や地域による格差もえぐいことになっています。
結局、僕らのような先進国の人間と、お金持ちが一番環境を破壊しているわけですね。以前の記事(今の暮らしをこのまま25年続けるのはきつそう)でも触れましたが、上位陣の過剰な消費が限界突破の大きな原因です。
3つのホットスポット:飛行機・車・肉
論文では、特に環境への影響がデカい「ホットスポット」として、飛行機、プライベートカー(車)、お肉の3つを挙げています。
飛行機: 超富裕層が圧倒的に排出
アメリカのトップ1%が排出する35トンというのは、NY〜LA間の往復5回と、アメリカ〜ヨーロッパ間の往復2回に相当するそうです。EUトップ1%は年間23トンなので、やはりアメリカだけすごいですね。
一方、大多数のSufficiency層以下の人々は飛行機による排出はほぼゼロです。
車: 超富裕層は年間5〜12トン
ここは中流階級でも2〜3トンで、意外と環境負荷がデカいです。特に注目すべきは、アメリカのような車社会だと、下位10%の低所得層ですら車から年間2トンのCO2を排出せざるを得ないという点です。これはもう個人の行動うんぬんではなく、「車がないと生きていけないインフラ」という構造の問題ですよね。
肉: 富裕層は年間2.5〜3トン
富裕層も困窮層に比べればたくさん食べてるけど、1日3食の限界があるので飛行機ほど異常な所得格差は出ません。しかし、アメリカでは高い牛肉を好むことが多いため、負荷が増える傾向ですね。
つまり、環境負荷を下げるなら、この3つ、特に富裕層の飛行機と車を、システムとしてどうにかするのが一番コスパがいいわけです。
Sufficiency層を見ていくと...
「じゃあ、持続可能な生活(年間5トン以下)をしているSufficiency層ってどんな暮らしなん?」と思いますよね。
EUで言えば、下から見て人口の15%くらいがこの層に入ります(逆に中国の農村部などでは大多数がこの層)。彼らの排出量の内訳を見ると、食費が1トン、住居が1.8トン。残りの2.2トンで服、移動、サービスなどをやり繰りしています。
つまり、生活の超基本的なニーズを満たすだけで、環境負荷の「予算」はパンパンになってまうんですね。
だからこそ、贅沢品である飛行機でのバカンスや、多すぎる肉食、無駄な車の利用は「ウォンツ(欲求)」であって「ニーズ(必需)」じゃないから削っていきたい、という訳ですね。
もちろん、個人の我慢や努力で全部解決できるわけじゃないので、システム全体の変革が必要です。
上限を抑え、下限を引き上げる
エコロジー経済学やドーナツ経済学の文脈では、十分性 (Sufficiency)とは「これ以上消費してはならない上限(天井)」と「誰もが人間らしい生活を送るための下限(床)」の両方を定めることを意味します。
実は世界の約3分の1(32%)の人々は、十分な食事や住居すら確保できない「困窮層」です(Ulvila & Wilén, 2017)。彼らの排出量は目標の2.5トンにすら遥かに届きません。彼らの生活水準を底上げし、貧困を無くそうと思えば、どうしても環境負荷は増えます。
「下限」を引き上げるための環境スペース(余白)を空けるためにも、「上限」を突破している超富裕層や僕らのような富裕層が、自らの過剰な消費をガツンと削る必要があるわけです。単純な計算です。頼みます。
まとめ
地球の限界を守るには、1人あたり年間2.5トンのCO2
トップ1%の超富裕層は年間200トン以上
脱炭素の急所は「飛行機」「車」「肉」の3つ
貧困層の生活基準を引き上げるためにも、富裕層が消費の上限を守るべき
我慢じゃなくて、社会全体を「足るを知る(Sufficiency)」構造にシフトさせたい
絶望的な格差を見せつけられましたが、裏を返せば「一部のトップ層の過剰な行動をシステム的に変えることができれば、一気に改善するポテンシャルがある」ということでもあります。希望の光も示してくれているので、ぜひともそこに縋っていきましょう。
参考文献
Akenji, L., Bengtsson, M., Toivio, V., et al. (2021). 1.5-degree lifestyles: Towards a fair consumption space for all. Hot or Cool Institute.
Khalfan, A., Nilsson Lewis, A., Aguilar, C., et al. (2023). Climate equality: A planet for the 99%. Oxfam.
Nyfors, T., & Linnanen, L. (2026). From Overconsumption to Respecting Planetary Boundaries. In T. Ruuska & T. Nyfors (Eds.), Sufficiency – From Growth and Overshoot to Enoughness (pp. 47-77). Brill. https://doi.org/10.1163/9789004746404
Ulvila, M., & Wilén, K. (2017). Engaging with the Plutocene: Moving towards Degrowth and Post-Capitalist Futures. In P. Heikkurinen (Ed.), Sustainability and Peaceful Coexistence for the Anthropocene. Routledge.
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