途上国のグリーン成長は「制度の質」が肝
ウィーン留学、残り5日。今日は田舎のカフェに来ました。カフェ内にビリヤード台が6つあり、正方形の机でおじおば様方がトランプを楽しんでいます。観光客などおらず、英語など聞かずという雰囲気。
さて、今回は2026年3月に出た「グリーン成長の構造的決定要因:機関の役割」と言う論文をもとに、グリーン成長が何によって左右されるのかを見ていきましょう。
ポスト成長、脱成長だけだと、どんどん思想が偏ってしまうので、たまには正当派の論文を読もうの回です。
今回の内容をひとことで言うと、「発展途上国におけるグリーン成長は、投資や都市化の量だけでは決まらず、制度の質がかなり効いている」です。制度のあり方について考える良い機会でした。
まずは復習: グリーン成長
とりあえず「気候危機時代においても経済成長に対して肯定的で、その伸び方を資源効率や環境負荷の面でより持続可能な方向に変えていこう」という考え方です。ほぼすべての国がこの理論だと考えて良いと思います。
大事なのは、「成長しながら、どれだけ環境へのダメージを抑えられるか。どれだけ資源やエネルギーの使い方を改善できるか」という点です。
なので、意外とややこしいのは、経済成長を重視する人にも、環境保護を重視する人にも、それぞれ都合のよい言葉として使われているということです。
しかし、この論文はその点を指摘しつつ、かなり具体的に見ています。
外国直接投資、金融発展、都市化、人口増加、人的資本、そして制度の質。
これらの構造的な要因が、グリーン成長にどう効くのかを実証的に確かめてくれました。助かります。
論文の設計
論文が使っているのは、96か国 の発展途上国を対象にしたバランス・パネルデータで、
期間は 2004年から2023年です。エグいデータ量。
しかも、単純な相関を見るだけではなく、頑健なパネル回帰分析を使って関係を推定しています。この手法は「たくさんの国を、たくさんの年にわたって追いかけながら、何がどう関係しているかを見る方法」です。1枚の写真ではなく、連続した映像で見る感じです。
さらに、この研究のポイントは制度の質を中心に据えているということです。
つまり、政府、法律、規制、みたいな、「社会のルールがどれくらいちゃんと機能しているか」。ハンドルやブレーキが効く社会かどうか、みたいな話です。
グリーン成長を押し下げる4要因
さて、ここから結果です。
論文の主な発見はかなり明確で、「外国直接投資、金融発展、都市化、人的資本の4つは、発展途上国でグリーン成長を有意に弱めていた」と報告されています。ふぁ。
1個ずつ見ていきましょう。
外国直接投資
外国直接投資は「海外から企業や資本が入ってきて、現地で生産や事業が行われること」です。
ふつうは、投資が増えれば技術移転が起きて、効率化も進んで、環境面でもプラスになるというのがセオリーです。
しかし、この論文では、発展途上国への外国直接投資はグリーン成長を弱めていたことがわかりました。
これは、投資の中身の問題です。
よりクリーンな技術が入るケースもあるでしょうが、制度が弱い国では、環境コストを外部化しやすい産業が流れ込みやすい「ポリューション・ヘイブン」的な話ともつながります。
人件費が安くて環境規制が低い国で生産をすれば、その分製品コストが抑えられるという悲しい合理的な理由です。
つまり、投資は「来れば正義」ではないという訳です。
金融発展
金融発展は「銀行や資本市場が発達して、お金が回りやすくなること」です。
これも直感的には良さそうです。
資金調達がしやすくなれば、環境技術にも投資しやすくなるはずだから。
ところが、この論文では金融発展の直接効果はグリーン成長にマイナスでした。
ここも、おもしろいし、ちょっと怖いです。
要するに、お金が回ること自体は中立で、その資金が何に向かうかが肝です。
もし、化石燃料依存の産業や資源多消費型の都市開発に流れれば、
金融の発展は、そのまま環境負荷の拡大装置にもなってしまう。
お金は増えるが、その行き先がだめだと。
都市化
都市化は「人口や経済活動が都市に集中していくこと」です。
これもまた、議論が割れやすいテーマです。
集積の効果でインフラ効率が上がる、公共交通が使いやすくなる、サービス提供が合理化される。そういうポジティブな面もある。
しかしこの論文では、都市化の直接効果はグリーン成長を弱めていました。
これは、急速な都市化がインフラ整備、土地利用、エネルギー需要の増加なども、制度が追いつかないまま進んでしまうと、環境負荷が膨らみやすいことを示唆しています。
つまり、都市化それ自体が悪いというより、
「どう都市化するか」を制御できないと駄目だということです。
人的資本
人的資本は「教育や技能、健康などを通じて人々が持つ生産能力」です。
これはさすがにポジティブだろと思いますが、こちらも途上国のグリーン成長にとってマイナスです。
これは、教育やスキルの向上が、現段階ではまだグリーンな部門への転換よりも、むしろ従来型の成長拡大を支える方向に使われている可能性があります。
人の能力が上がっても、経済の向き先が変わらなければ、従来型の資源投入の多い成長を加速してしまうという訳ですね。
ここまで4つ見てみましたが、共通点は「経済の方向性」です。僕は普段「脱成長かグリーン成長か」みたいな軸で話していますが、途上国となると、「成長」一択であり、その方向性が「従来型成長かグリーン成長か」という訳です。
その際、まだグリーン周りの転換ができてない国だと、当たり前のように化石燃料依存や物質を大量に使用する経済のレールに乗ってしまいます。ハンドリングですね。
人口増加だけがプラス
一方で、人口増加に関してはは、この研究ではグリーン成長に有意なプラスの影響を持っていました。
ただ、ここは少し慎重に読みたいところです。
人口が増えること自体が環境に良い、と単純には言えません。
むしろ多くの文脈では逆の懸念もあります。
しかし、この論文の結果としては、発展途上国では人口増加が「市場規模の拡大」や「労働供給の増加」を通じて、「資源効率や生産性改善」と結びついている可能性があります。
また、若い人口構成が、新技術の受容や構造転換を後押ししている可能性もありますね。
つまり、このポジティブな反応においても、重荷にも資源にもなりうることが示唆されています。
となると、やはり、制度や政策の受け皿をどうするかという議論になります。
「制度の質」は混合効果
さてそれでは、善にも悪にもなるそれらの指標を左右する「制度の質」について考えてみましょう。
そもそも「制度の質」とは、政府や法律がどれだけ安定的に・有効に機能しているかを示す概念です。この論文で言うと、国の統治によって「経済成長を、環境に良い方向に導けるか」という意味合いになります。
まず、制度の質についてもグリーン成長との関係性ですが、直接効果はグリーン成長に対してマイナスと出ています。つまり、質が高いからと言ってグリーン成長するわけでは全くないということです。
ただし同時に、「制度の質」は、「金融発展」と「都市化」については正の調整効果を持っていました。つまり、制度がしっかりしている国ほど、「金融」や「都市化」が持つマイナス面を和らげ、持続可能な方向へ向け直せる可能性がある、ということです。
一方で、外国直接投資、人口増加、人的資本については、制度の質は有意な調整効果を示しませんでした。つまり、制度が整っていても、それだけでは「投資」「教育」「人口動態」をグリーンな方向に十分導けていないわけです。
ということで、制度が大事なのは間違いない。とはいえ、制度だけで全部救えるわけでもない。なんとも面白みのない結果です笑。
制度の質は急に変わる
とはいえ、制度の質を高めていくに越したことはありません。
論文は、制度の質には非線形効果があるよと示唆します。
つまり「少し良くなれば少しずつ効く」ではなく、
「ある水準を超えたら効き方が変わる」ってことです。
制度改革は、短期では成果が見えにくいことが多いですが、ある閾値を超えるとグリーン成長が伸び始めるとわかっていれば、初期段階の地道な改善にも取り組めます。
そう考えると、「金融発展」「都市化」以外の「投資」「教育」「人口動態」に関しても、「ある水準」が来ることが分かっていれば、その分野の「制度の質」向上のために時間やコストをかけることができるはずです。
結局、制度をどう運用するか
この論文が言っているのは、「発展途上国は制度改革をしなさい」というだけの話ではありません。むしろ、グリーン成長を支えると信じられてきた要因が、条件しだいでは逆向きに働くということを示している点が重要です。
それぞれの項目は単なる「量」にすぎなくて、その「方向」をどうするかをちゃんと制度でハンドリングする必要があります。
ここには、最近のサステナビリティ議論全体への示唆も感じました。
成長か脱成長か、みたいな二項対立で終わるのではなく、
実際には制度・資金・設計などの中間層がかなり効いているという訳です。
図らずも、前回の「GDP以外の指標は、なぜ広がらないのか」と同じような結論になりました。OSをアップデートし、ルールを明確に定める。そしてそれをいかに運用するか。これに掛かっているというわけでした。
まとめ
対象は発展途上国 96か国、期間は 2004年から2023年。
外国直接投資、金融発展、都市化、人的資本は、グリーン成長を弱める方向。
人口増加だけはプラスだったが、これも制度や政策の受け皿込み。
制度の質は直接にはマイナス、ただ、金融発展と都市化をより持続可能な方向へ向け直す調整役。
グリーン成長は「よいものを増やせば勝ち」ではなく、「構造変化をどう制御するかの問題」

参考文献
Hasan, M. A. (2026). Structural determinants of green growth: The role of institutions. KASBIT Business Journal, 18(3). https://doi.org/10.54219/mhhk1w94
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