経済成長なしで失業者が増えない戦略

AI時代のポスト成長で、仕事をどう守るかという2026年3月の論文
keene 2026.03.12
誰でも

流石に家に飽きたので、カフェに行きたいのですが、コーヒー1杯800円くらいするのでなかなか気が進みません。なので、ウィーン中にあるマックを回っています。カフェモカが1番安くて250円くらいなので、これで5時間くらい居座ってます。いぇい。

さて、今回はEcological Economics に6月掲載予定の「ポスト成長経済で失業を避ける」という論文を読んでいきます。

経済成長の副作用として格差が広がったり失業が増えたりするのはご存知かもしれませんが、ポスト成長においても、経済成長を推進しないということは企業体力も落ちるということですから、失業が増える可能性があるんですね。

そこで、「経済成長が弱い時代とか、AIで仕事が置き換わる時代に、失業を増やさずに社会を回す道はあるんですか」という問いに、答えてくれたという論文です。

そして答えを先に言っちゃうと、
「労働時間を減らすだけじゃなく、人手が活きるサービス経済と、
労働集約的な生産をちゃんと考えよう」という話です。

今日のインフォグラフィック。Nanobanana2で更に良くなった。

今日のインフォグラフィック。Nanobanana2で更に良くなった。

ポスト成長(成長後の経済)を軽く復習しておくと、
「GDPをひたすら伸ばすことを最優先にせず、
環境制約の中で人間の暮らしを安定させる方向へ経済を組み替える」といった議論です。
詳しくはこの辺をお読みください。

しかも今回は、低成長だけじゃなくて AIが研究の範囲に入ってます。
これは経済学用語で労働代替的技術(labour-displacing technologies)と言いまして、
「人間の仕事を機械が持っていってまう技術」です。

この「低成長×人間減らし技術」の世界で、失業とどう戦っていくのかという訳です。

失業回避のための、2つの戦略

この論文が押し出している失業回避の戦略は 2 つあります。

  • プロダクトを、より労働集約的なサービスへシフトする

  • プロダクトは同じでも、生産プロセスをより労働集約的に組み替える

どちらも「新たに仕事を増やす」というより、
「人間の労働を社会の中で、必要なものとして位置づけ直す」発想ですね。

つまり、仕事を「最低限必要な作業」を
「雇用を成立させるための作業」と捉えて設計するという訳です。
これはポスト成長に適応する形で、雇用の形を変化させるべきだという主張になります。

労働集約的なサービスへのシフト

論文の第3節は 「人間サービスの経済へ(Towards a human services economy)」。
この見出しだけで、かなり方向性が見えます。

この節で重要なのが 人的サービス(human services)です。
つまり「ケア、教育、福祉、対人支援みたいに、人が人に関わることで価値が出る領域」です。

こういう分野は、生産性工場に限界があります。
工場みたいに「同じ人数で倍のモノを作る」ということは不可能です。
逆に言うと、人が必要。そこが強みでもあるわけですね。

ボーモルのコスト病

ここで出てくるのがボーモルのコスト病( Baumol’s cost disease) という概念です。
これは「他の産業で生産性が上がると、機械化しにくいサービス部門の人件費が相対的に重く見えるので、コストを抱えるのが億劫になる」みたいな話です。

たとえば、以下のロジックです。

  • 製造業やITで生産性が上がる

  • その部門では賃金も上がりやすい

  • 教育やケアは人手を減らしにくいので、生産性はあまり上がらない

  • でも人を確保するには、そちらもある程度賃金を上げないといけない

  • すると「生産性は上がってないのに賃金だけ上がる」ように見えて、コスト高に見える

これがコスト病です。つまり「賃金を上げないと人が来ない、でも上げると高コストに見える」という訳です。

ボーモルのコスト病は問題ない

しかし、この論文は、ボーモルのコスト病は
「一般に思われているほど厄介ではないかもしれない」と言っています。理由は以下です。

  • ポスト成長では、“全産業がどんどん賃金上昇する世界”を前提にしない
     ボーモルの議論は、生産性がぐんぐん伸びて賃金を引っ張る世界観。
     ポスト成長では、その前提自体が弱まる。サービス部門だけが「取り残される」構図も弱まる。

  • ケアや教育は、コストが高いというより“社会として優先して配分すべき分野”と見直せる
     工業製品みたいに「1人で100個作れないからダメ」ではない。
     ケアや教育は、人手がかかること自体が価値でもある。

つまり、生産性が低いのではなく
「品質の中に人間的な関わりが入っている」という価値観を持ちます。

ケアや教育みたいな分野の人手を増やすのは、
失業回避の現実的戦略として再評価できるかもしれない
と提案しているわけです。すばらしい。

もう1つの戦略「労働集約的な生産プロセス」

労働集約的生産(labour-intensive production) というのは、
ざっくり言うと「とにかく人手を削って効率化する方向だけが正義ではない」という話です。

普通は、より少ない労働で同じものを作れた方がええやん、となります。
資本主義の標準回答ですね。

でもポスト成長の文脈では、
生産量を無限に増やせないし、雇用も守りたい
ならば「効率化しすぎること」が逆に失業圧力を高めることもある。
悲しくなってきたところで、ここから反転があります。

この戦略は「人手を増やしたらコスト上がる」
という単純な方程式であまり歓迎されません。

しかし論文は、ポスト・ケインズ派経済学制度派経済学の知見を引きつつ、
条件によっては、より労働集約的な生産プロセスが、
「1個あたりコスト」を上げずに採用できる可能性があると論じています。

つまり、「人を増やす = 高コスト」は自明ではないと示したわけです。

なぜ「人を増やしてもコストが上がらない」可能性があるのか

人を増やしてもコストがあまり上がらない、あるいは逆に下がるケースは、例えば以下です。

  • 機械化や自動化そのものが高い
    新しい設備やAIシステムが高いと、
    人件費を削ってもトータルではあまり得しないことがある。
    つまり「人を減らせたけど、機械が高すぎる」パターン

  • 人を増やした方が品質低下やミスを防げる
    ケア、教育、修理、接客、地域交通みたいな仕事では、
    人を減らすとミス、離職、事故、クレームが増えて、
    あとで余計にコストがかかることがある。
    「一見人件費は増えても、全体では安く済む」パターン。

  • 需要がそこまで大きくなく、大規模自動化の元が取れない
    大量生産なら機械化が強いですが、
    小規模で地域分散的な仕事だと、自動化投資を回収しにくい。
    「ほどほどに人手を使う方がむしろ自然」パターン。

  • 企業が「最小コスト」だけで動いていない
    現実の企業は、短期利益だけでなく、
    安定供給、品質、評判、柔軟性、雇用維持も気にします。
    「理論上は省人化が合理的でも、人の存在自体が大事」パターン。

  • 賃金が低すぎる産業では、人手の追加コストが大きくない
    これは少し嫌な話でもありますが、
    現実には低賃金部門では「人を増やすと即コスト爆増とはならない」そんなパターン。
    だからこそ本当は、低賃金のまま使い倒すのでなく、賃金と雇用の設計を社会全体で考える必要があります。

たとえば身近な例でいうと、

  • 保育で職員を少し増やすと、離職や事故リスクが減る

  • 病院で看護師を厚めにすると、再入院や見落としが減る

  • 修理やメンテナンスを人手で丁寧にやると、買い替え頻度が下がる

  • レストランでギリギリ人員をやめると、回転は上がる

みたいな感じです。

つまり、
人件費 だけ見れば高そうでも、
設備費 + ミス + 品質低下 + 離職 + 需要変動への弱さまで入れると、
人を増やした方がそんなに高くない、あるいは合理的、ということがあるわけです。

この大AI時代だからこそ考えたい「人的コスト」の話でした。

まとめ

  • ポスト成長で失業を避ける道は「サービス構成の転換」と「労働集約的生産」

  • 人手のかかるサービス経済は、コスト病のせいで即アウトではない

  • 条件次第では、人手を多く使う生産でも単位費用を上げずに成立しうる

  • AI時代だからこそ「生産性が上がる」より先に「雇用をどう守るか」を問う必要

参考文献
Aldred, J. (2026). Avoiding unemployment in a post-growth economy. Ecological Economics, 244, 108974. https://doi.org/10.1016/j.ecolecon.2026.108974

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