【エコロジー経済学】これぞ新時代

環境と人間が共生する、経済学における古典的、そして新パラダイム
keene 2025.03.05
誰でも

さてやってきましたエコロジー経済学。これが現時点での僕の学派になりますので、かなり熱がこもっております。しかし長々と説明せず、できる限りシンプルにお届けいたします。

エコロジー経済学とは

  • 人間の経済活動を生態系の一部として捉え、持続可能な発展を目指す学問。
    (参考:Costanza, 1991)

まずは、経済は自然の一部だぜって捉えることから始まります。一見当たり前のようですが、これが主流の経済学ではそんなことないんですね。

例えば、マクロ経済学における生産というのは、X = F(N, Z)という関数で表され、これは、

  • 生産物 = 労働力 + 資本 (お金やら機械やら)

ということを意味します(Pu, 1946)。

「環境や資源はどこいったんや」ということですよね、わがります。

というのも、経済学は「希少なものをどう分配するか」という学問なので (Mankiw&Taylor, 2020)、資源や環境が豊富にある時は、それらについて特段考えなくても良かったという訳です。

しかし、エコロジー経済学は、これに問題意識を持って、「人間が自然環境を無限に取り出せるんやなくて、自然環境の一部として住まわしてもろてんねんで、」

と、自然や生態系の価値をかな〜り重視しているということです。

また、持続可能な発展というところもポイントでして、これは泣く子も黙るSDGsにおける「持続可能な開発」とはまたけっこう違う意味を示します。

エコ経の創始者の1人、ハーマン・デイリーは、量的な「成長(growth)」と、質的な「発展(development)」を明確に区別するべきだと言っております (デイリー, 2014)。これは、「成長」は常にプラスを意味するわけではないよということを示唆しています。

例えば、20歳を超えても30歳を超えても身長が「成長」し続けて4mになりました、ってなってしまってはうなじを削がれてしまいますよね。他にも、「がん細胞」であっても「成長」という言葉を用います。つまり、成長は「常にいいもの」ではない訳です。

反対に、「発展」は「常にいいもの」に使われる言葉です。教育や医療の水準、伝統文化、自然環境などなど、「発展」し続けることは常に重要です。これはイメージしてもらったらわかることですね。

しかし、SDGsのDである「持続可能な開発」は、[8. 働きがいも経済成長も]とある通り、「量的な成長」を意味しておりますので、エコロジー経済学と似た概念に見えて、描いているビジョンは真逆と言っていいほど違う訳なんです。

言葉の定義がややこしいですが、とにかく、このエコロジー経済学における「持続可能な発展」という言葉は、「経済成長」を必ずしも意味しないということです。

続きまして、歴史を見てみましょう。

軽い歴史

  • 1926年『富、仮想富、負債:経済的パラドックスの解決』をフレデリック・ソディが出版

  • 1966年 「宇宙船地球号の経済学」ケネス・ボールディングが提唱

  • 1971年『エントロピー法則と経済過程』をニコラス・ジョージェスク・レーゲンが出版

  • 1972年『成長の限界』をローマクラブが出版

  • 1988 年に国際生態経済学会(ISEE)が設立される (けっこうメール送ってきはる)

  • 1989 年に雑誌「Ecological Economics」が創刊される (けっこう無料でよめる)

学会設立以外では、なかなかはっきりしたものが無いので、重要人物や重要書籍を見ていく感じになりました。とはいえ、これはかなり重要なことが並んでおります。

ノーベル化学賞も取ったソディさんが、熱力学を経済学に応用、レーゲンさんがさらに発展させるというのが特に重要な歴史ですね。

エコロジー経済学は、別名「エントロピー経済学」とも呼ばれるのですが、それは熱力学第2の法則「エントロピー増大の法則」を経済学に応用しているということが所以です。

また、国際エコロジー経済学会や雑誌の刊行には、エコロジー経済学の創始者の1人、ハーマン・E・デイリー氏が関わっております。彼は2014年に国際的な環境賞であるブループラネット賞ももらっており、この大サステナビリティ時代に多大の貢献をされた方です。

僕の先生は若い時に、当時世界銀行のトップだったデイリーさんに直でアポ取って会いに行ったことで交流があったそうですが、2019年に亡くなってしまったので、僕は残念ながら会えず終いです。

「持続可能な発展の3原則」

そんなハーマン・デイリーさんの提唱した「持続可能な発展の3原則」がエコロジー経済学の基盤ですので、ご紹介します。

  • 「再生可能な資源」の持続可能な利用速度は、その資源の再生速度を超えてはならない

  • 「再生不可能な資源」の持続可能な利用速度は、再生可能な資源を持続可能なペースで利用することで、代替できる速度を超えてはならない

  • 「汚染物質」の持続可能な排出速度は、環境がそうした汚染物質を循環し、吸収し、無害化できる速度を上回ってはならない (デイリー, 2014)

つまり、再生可能資源の再生ペースと、枯渇性資源の利用ペースの限界は超えないようにしようってことですね。


なんか当たり前のような気がずっとしてしまいますね。そんなことが今の人類はできていないのかと悲しい気持ちにまでなります。

中3の時の担任 松岡先生が「凡事徹底、当たり前のことを当たり前にしなさい」って言っていたのは、デイリーの3原則のことだったんだと、今になってわかります。

「定常経済」というゴール

そしてこれが1番わかるようでわからない、批判も多ければ誤解も多い、トンデモ理論のように聞こえるけども、だからこそおもしろい、人生を賭ける価値があるところです。

これも簡単にひとことで言ってしまうと、

  • 地球には物理的な限界があるのだから、経済の規模にも限界があるのだ (ピヨピーヨ速報の声で)

ということで、経済の最大規模について物申しています。そりゃぁ経済成長が無ければ成り立たない現在の資本主義でこれを言ってしまうなんて、ほんとに地動説を唱えるようなものです。

昔はこの流派を発表した方が、学会で生卵を投げつけられたこともあるそうです(先生談)。

ただ、この理論も経済成長そのものを否定しているわけではなく、ある程度まで成長したら、物質的な豊かさから、質的な豊かさの発展に移行していくよねってことです。

体の成長は20歳くらいまでで止まるけど、その後も頭や心は発展するよねってイメージです。

この経済規模の考え方としては、以下の図がわかりやすいです。
「空いている世界 (Empty World)」「いっぱいの世界 (Full World)」なんて言われております。

Daly,1993, p.2を元に筆者作成

Daly,1993, p.2を元に筆者作成

まだ成長してない空っぽの時はそこそこ経済が無理しても環境が耐えてくれてたけど、だいぶ成長していっぱいになったら環境は耐えられませんよって図です。

私たちは2022時点で、地球1.7個必要な生活をしているので、もう「いっぱい」どころか飛び出しちゃっておりますけども(Global Footprit Network)。だからこそ、規模を縮小せねばならんと、「脱成長」という概念も生まれていますね。

エコ経は、脱成長の概念とは厳密には違うのですが、現在は非常に近い位置にあり、デイリーも2014年のインタビューで以下のように言っております。

まずは適切な大きさまで脱成長して規模を縮小し、持続可能な水準になってから、定常化を図る必要があります。
デイリー, 2014

今年、2025年の6月にはノルウェーにて、メールが多いで有名な国際エコロジー経済学会が「脱成長国際会議」なる怪し気な会議を開催するということで、かなりホットなテーマであります。

脱成長もたくさん書きたいことがありますので、また今度。

古典派経済学者の預言

最後に、実はこの「定常経済」、経済学の父 アダム・スミスや、同じく古典派経済学者 ジョン・ステュワート・ミルも似たことを言っているんです。

成長が続いたとして200年、そのあとは、人口は安定するだろう(アダム・スミス)。
デイリー, 2014
成長期の後、経済は、人口や資本ストックが一定であることを特徴とする"定常的な状態"に達するだろう(ジョン・スチュワート・ミル)。
デイリー, 2014

出典が孫引きで申し訳ないです、前者は『国富論』、後者は『経済学原理〈4〉』とのことなので、いつか日本に帰ったら探しますm(_ _)m。

古典派とは、産業革命以前の経済学者を指す場合が多く、この時期は再生可能資源だけで暮らしていた「バイオエコノミー」の時代です。だからこそ、「地球のエネルギーには限界がある」と認識しており、エネルギー上限と対応して経済は定常化すると予測したん訳なんですね。

今、ドイツを中心にバイオエコノミーが叫ばれている訳ですから、エコロジー経済学の枠組みが大事なんじゃねえのと思っている男でございます。どうぞ今後もご贔屓に。

まとめ

  • エコロジー経済学は、生態系の中に私たちがいるんだよっていうビジョンの経済学。

  • 最終的には「定常経済」っていう、過剰な経済成長が必要のない世界を目指している。

  • 経済学の創始者たちはこれを予見していた。

参考文献

  • Costanza, R. (1991). Ecological economics: A research agenda. Structural Change and Economic Dynamics, 2(2), 335–357. https://doi.org/10.1016/S0954-349X(05)80007-4

  • Daly, H. E. (1993). Steady-State Economics: A New Paradigm. New Literary History, 24(4), 811–816. https://doi.org/10.2307/469394

  • Global Footprint Network, https://www.footprintnetwork.org/

  • ISEE, International Degrowth Conference, https://isee-degrowth2025.no/

  • Mankiw, N., & Taylor, M. (2020). Economics (5th ed.). Cengage Learning EMEA.

  • Pu, S. S. (1946). A Note on Macroeconomics. Econometrica, 14(4), 299–302. https://doi.org/10.2307/1906911 

  • デイリー・ハーマン, [聞き手] 枝廣淳子 (2014), 『「定常経済」は可能だ!』, 岩波ブックレット914, 岩波書店

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