プラネタリーバウンダリーの2023年の最新版を見ておこう
2009年、2015年、2023年に更新されており、2024年11月にガイドラインが出ておりました。
今回は2023年最新版を見ていきやしょう。
プラネタリーバウンダリーとは
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地球で安全に生活するために重要な項目を9つ挙げまして、測ったったで。
でございますね。9つとはまぁ骨が折れる作業ですが、どんな項目でしょうか。
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気候変動
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生物圏の健全性
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オゾン層の破壊
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海洋酸性化
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窒素・リンの循環
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土地利用の変化
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淡水利用の変化
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大気エアロゾルによる負荷
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新しい合成化学物質
たくさんありますねえ、一見したらわからないものもあるし、大変だ。
そして、どうしてこんな骨折り9項目をがんばったかと言いますと、
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地球システム全体の状態を考慮する際の環境問題に関する科学的理解をもたらす
(参考: Katherine et.al., 2023)。
と、気候変動・生物多様性の喪失・汚染などの問題を別々の問題として捉えるのではなく、地球全体の相互的な影響を理解しましょうぜってことですね。
2023年9月 最新版
さて、最新版を見ていこう。まずは図をズドンと。

Katherine et.al., 2023
この論文のタイトルは、「プラネタリーバウンダリー、9個中6個超えてた」です。
ご覧の通り、緑のゾーンに収まっていないのは、安全に暮らせる範囲を超えてる訳です。
や〜恐ろしい。ハイリスクゾーンの色も怖いですね〜、痛みすら感じます。
激ヤバ: 生物圏、気候変動、化学物質、窒素・リン
特にやばいのは、左上の「生物圏の健全性」における、遺伝的多様性の項目ですね。
推定800万種の動植物のうち、約100万種が絶滅の危機に瀕しており、過去150年間で動植物の遺伝的多様性の10%以上が失われた可能性がある(Moises et.al., 2022)。つまり、「生物圏の健全性」の「遺伝的」な要素は著しく超過している
他にも、現在の種の絶滅率は、過去1000 万年間の平均率よりも数十倍から数百倍高いと推定されていることなど(Gerardo et.al., 2015)、もう想像もできないですよね。
気候変動の境界線は、1.5度目標を達成できるレベルの350ppm (CO2濃度)に設定されていますが、現在は417ppm (Forster et.al, 2023)と、超えちゃっていますねえ。
右上の、新合成化学物質(Novel Entities)に関しては、未検査の合成化学物質の放出が0%というのをバウンダリーとおいてます。キビシー!
EUの化学物質の規制に基づいて登録されている化学物質のうち、80%が安全性評価を受けていないんだとか(Persson et.al., 2022)。とはいえ、地球システムへの影響に関する安全性研究もほとんどないそうで、バウンダリーの定量化が難しいそうです。
あと赤黒いのは左下の窒素N・リンPの循環 (Biogeochemical flow)ですね。
リンの境界は1100万トン/年のところ現在2260万トン/年、窒素の境界は6200万トン/年のところ1億9000万トンとのこと。
もう数字に関してはわけわからんですが、農業での過剰な化学肥料の使用が、淡水域の富栄養化を引き起こしちゃったり、上記の「生物圏の健全性」に影響を与えてしまったりするそうです。
ヤバ:土地利用の変化、淡水利用の変化
土地利用の変化は、現在の森林の面積を、元々の森林の面積で割ったものなので、森林減ってんでーメーターですわな。
地球全体で75%までにするのが安全域ですが、現在は60%と、だいぶと変化しておりますねえ。火災による森林面積の減少や、アマゾン熱帯林の破壊が深刻なようです。
淡水利用の変化については、河川などのブルーウォーターと、土壌中のグリーンウォーターに分けて陸上の生態系や気候への影響を見ておりますね。
農業や都市化によって、水の利用が増加して淡水循環を変化させちゃったり、工業廃水によって、水質が汚染されちゃったりなどですね。
ブルーウォーターの約18%と、グリーンウォーターの約16%が自然な炭素循環から外れており、湿潤や乾燥が発生しております(Porkka et.al., 2024)。
安全域のバウンダリーはそれぞれ約10%と11%なので、ヤバって感じですね。
マダダイジョブのエアロゾル、海洋酸性化
エアロゾルは、大気中に漂う微粒子で、砂漠の塵や火山噴火後の灰など自然発生的なものと、発電や運輸の際に出る二酸化硫黄・窒素酸化物などの人為発生的なものがあり、この人為的なものが増えてまっせって話です。
しかし、地域的にはバウンダリーを超えてることもあるが、世界的にはバウンダリー以内という現状ですね。データもあまり集まってないそうなので、続報を待てと。
海洋酸性化、これはCO2排出量が増えると海の表層の炭酸イオン濃度が増えまっせ、甲殻類やサンゴが溶けまっせと言うことですが、こちらはまだ安全域とのこと。しかし、悪化しているのは確かなので、要注意ですね。
個人的には大学3年の時に、和歌山県串本町のサンゴの研究をちょろっとしたので、思い入れがあるところです。世界最北端のサンゴ群衆域、綺麗なのでぜひ。
ダイジョブのオゾン層
そしてオゾン層。これは唯一ちゃんと回復している、環境問題を解決できつつある良い例なんですよね。大人の皆さんあざます!
基準としては産業革命以前の値の5%未満の減少にしましょうぜってとこで、南半球の高緯度地域ではまだ安全域を越えることがあるようですが、世界的にはしっかり回復傾向とのことです(Pazmiño et.al., 2018)。
2066年には全回復するようなので(WMO, 2022)、気を抜かず最後まで走り抜けてくださいませ。
僕はその時66歳なので、京都で小さなお茶農家をやっております。買ってくださいませ。
まとめ
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プラネタリーバウンダリーは、人間が地球で安全に暮らせるために重要な9つの指標
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生物多様性、気候変動、物質循環などなど、基本的に全部ヤバイ
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オゾン層だけ回復傾向
次回は2024年11月に発表されたガイドラインを見ていきやす。
参考文献
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Forster, P. M., Smith, C. J., Walsh, T., Lamb, W. F., Lamboll, R., Hauser, M., Ribes, A., Rosen, D., Gillett, N., Palmer, M. D., Rogelj, J., Von Schuckmann, K., Seneviratne, S. I., Trewin, B., Zhang, X., Allen, M., Andrew, R., Birt, A., Borger, A., … Zhai, P. (2023). Indicators of Global Climate Change 2022: Annual update of large-scale indicators of the state of the climate system and human influence. Earth System Science Data, 15(6), 2295–2327. https://doi.org/10.5194/essd-15-2295-2023
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Gerardo Ceballos et al. ,Accelerated modern human–induced species losses: Entering the sixth mass extinction.Sci. Adv.1,e1400253(2015).DOI:10.1126/sciadv.1400253
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Hansen, J. E., Kharecha, P., Sato, M., Tselioudis, G., Kelly, J., Bauer, S. E., … Pokela, A. (2025). Global Warming Has Accelerated: Are the United Nations and the Public Well-Informed? Environment: Science and Policy for Sustainable Development, 67(1), 6–44. https://doi.org/10.1080/00139157.2025.2434494
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Katherine Richardson et al. ,Earth beyond six of nine planetary boundaries.Sci. Adv.9,eadh2458(2023).DOI:10.1126/sciadv.adh2458
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Moises Exposito-Alonso et al. ,Genetic diversity loss in the Anthropocene.Science377,1431-1435(2022).DOI:10.1126/science.abn5642
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Pazmiño, A., Godin-Beekmann, S., Hauchecorne, A., Claud, C., Khaykin, S., Goutail, F., Wolfram, E., Salvador, J., & Quel, E. (2018). Multiple symptoms of total ozone recovery inside the Antarctic vortex during austral spring. Atmospheric Chemistry and Physics, 18(10), 7557–7572. https://doi.org/10.5194/acp-18-7557-2018
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Persson, L., Carney Almroth, B. M., Collins, C. D., Cornell, S., de Wit, C. A., Diamond, M. L., Fantke, P., Hassellöv, M., MacLeod, M., Ryberg, M. W., Søgaard Jørgensen, P., Villarrubia-Gómez, P., Wang, Z., & Hauschild, M. Z. (2022). Outside the Safe Operating Space of the Planetary Boundary for Novel Entities. Environmental Science & Technology, 56(3), 1510–1521. https://doi.org/10.1021/acs.est.1c04158
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Porkka, M., Virkki, V., Wang-Erlandsson, L., Gerten, D., Gleeson, T., Mohan, C., Fetzer, I., Jaramillo, F., Staal, A., Te Wierik, S., Tobian, A., Van Der Ent, R., Döll, P., Flörke, M., Gosling, S., Hanasaki, N., Satoh, Y., Müller Schmied, H., Wanders, N., … Kummu, M. (2024). Global water cycle shifts far beyond pre-industrial conditions – planetary boundary for freshwater change transgressed. https://doi.org/10.31223/X5BP8F
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WMO(2022). Executive summary. Scientific assessment of ozone depletion: 2022, GAW report no. 278. Geneva, Switzerland: WMO, 56 pp.
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