プラネタリーバウンダリー 最新ガイド2024
プラネタリーバウンダリー(PB)の創始者であるロックストローム博士が直々に2009年、2015年そして2023年の最新版までのレビューを下し、これからのガイドラインを示しております。
論文は、"Planetary Boundaries guide humanity’s future on Earth" というかっこいいタイトルでございます。
2050年、2100年を見据えた前向きな論文でけっこう楽しく読めたので、ぜひ原典の方もよろしくお願いします。これはたぶん誰でもアクセスできるはず。
PBの補足説明
まず、僕が見落としていたのかもしれないPBの基礎的なところですが、面白かったので共有です。
居住可能な惑星の基準は、文明の確立と人間の発展をサポートできることが知られている唯一の地質時代、つまり約11,700年前に始まる完新世に設定されています。
ということで、地球システム全体を超長期的に見た上でこのバウンダリーを設定している訳ですね。
つまり、「環境問題やばいし対処しよや!」というような対症療法ではなく、体系的な惑星全体の視点から、人間にとって安全な活動空間を定義していると。すげえ。
逆に言うと、このバウンダリーは超えてたらマジでヤバいってことも言えますね。「人新世」おそろしい。
9項目中、6項目で色々と変化
2009年から2023年までで、PBの測定状況と指標自体も変化しております、軽く以下にズドンと。
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2009年「化学物質汚染」が未定義、未測定
→2015年「新合成化学物質」になり、境界値が定義され、測定も完了。ハイリスクラインは未定。 -
2009年「大気エアロゾル負荷」が未定義、未測定
→2023年に境界値、ハイリスクラインが定義され、測定も完了。 -
2009年「生物地球化学的循環 (窒素・リンの循環)」の項目
→2015年から窒素もリンも測定方法が変更 -
2009年「淡水の変化」の項目
→2023年から「ブルーウォーター(河川などの淡水)」と「グリーンウォーター(土壌中の水の流れ)」に細分化。 -
2009年「土地利用の変更」の項目
→2015年から測定方法が「農地転換された土地」から「世界の森林面積」に変更。 -
2009年「生物圏の健全性(生物多様性)」の項目
→2023年から「機能的健全性」の項目が追加
指標に関して2009年から変更が無かったのは、気候変動、オゾン層、海洋酸性化、の3つですね。いやぁ試行錯誤がすごい。
ちなみに2023年最新版で、やっとこさ全9項目の測定ができましたので、これが基準点となって、これからより比較検討の精度が上がっていくことが期待できますね。これはたのしみだ。
PBの考え方が社会で主流化してきている
PBの根幹は完全に自然科学ですが、持続可能性の課題に取り組む社会科学や人文科学の分野でも主流になりつつあります(Rockström et.al., 2024)。 (原典で重要な出来事を時系列でバーっと書いたグラフがあって面白いのでぜひ)
健康科学、教育、哲学、宗教学、心理学、法律、ガバナンス、行動科学、経済学、創造芸術で取り上げられているそうで、すごい幅広い。これは胸張って主流化と言っても良しですわ。
その中でも、僕の記事で特筆すべきは、やはり経済学への影響ですね。
この論文で書いてる通りPBは僕の学派であるエコロジー経済学との相性が超いいんですよね〜嬉。
エコ経は、「経済の最適な規模」について議論している学派でありますが、PBはその名の通り、惑星の境界内において、限られた自然環境という予算の中で経済を動かそうという思想のため、かなり親和的なんです。
また、PBをベースに作られた経済学として、のがケイト・ラワース先生のドーナツ経済学という素晴らしい経済学もあります。
ドーナツ経済は、定常経済と同様に、有限の惑星で現在理解されている無限の経済成長に疑問を投げかけるという概念に基づいています。
エコロジー経済学へのさらなる追い風としてドーナツ経済学がやって来た!という感じで、
「地球の限界内ですべての人に豊かな暮らしを」というテーマが完全に共通しています。
いやぁネーミングが本当にいいなあ。僕も「ドーナツ経済学者です」とか言ってみたいです。いや、「ドーナッツ経済学者です」か。ん〜ちっちゃい"ツ"をどうしようか、しばらく悩みの種になりそうです。
とにかく、これはTED-edにめちゃ良い動画がありますので、ぜひ見てください。
「成長」という言葉に、わかりやすく疑問を投げかけております。
ドーナツ経済学についいては、僕も勉強したいので、また別に書きます〜。
これからのPB
さあ、これからのプラネタリーバウンダリーですが、フレームワークに関して、まだ多くの科学的な課題が残っていると指摘しています。
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全ての生物圏 PB にわたる、完新世の変動範囲に関するデータが不足している
(地球にとって適切な環境状態を「完新世」に設定しているが、そのデータがまだ足りない) -
複数のバウンダリーの同時超過の影響については、ほとんど検討されていない
(現在は各項目が独立して図られているが、相互作用も検討すべき) -
更新は6~8年ごとに行われているが、急速に近づいているティッピングポイントを考えると、
これは長すぎる
以上が、これから特に重要な改善テーマですね。
更新頻度に関しては、新しいビッグデータとAIのアプローチによってより早く、精度も上がって、毎年できるのが理想だって仰っております(Rockström et.al., 2024)。
経済成長自体に懐疑的であっても、こういった最新技術も "道具" として積極的に活用していこうとする姿勢は、変に斜に構えてる感じが無くていいなあと思う次第です。
まとめ
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9項目のうち、6項目が進化している。
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2023年でやっと全項目の測定が終わった。
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プラネタリーバウンダリー自体が社会的に主流化しつつあるぞ!特にドーナツに注目!
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よりデータ集めて、相互作用調べて、更新頻度上げてこ!
参考文献
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Rockström, J., Donges, J.F., Fetzer, I. et al. Planetary Boundaries guide humanity’s future on Earth. Nat Rev Earth Environ 5, 773–788 (2024). https://doi.org/10.1038/s43017-024-00597-z
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