ドーナツ経済学 系統的レビュー2025
こちらは、ドイツ1周・パリ旅行を終えて、4/1からのさらに理解の難易度が高そうな新学期に怯えているところであります。
旅行中の電車から景色を眺めていると、ベルリンやパリの近くで大きな風力発電の風車がたくさん見えまして、大都市のこんな近くで発電すれば送電のエネルギーロスも少ないなぁ、ふむふむという薄い感想だけお伝えします。
さてさて、今回見ていく論文は、2012年~2024年の間に出版されたドーナツ経済学に関する論文から101件を論文を抽出し、分析精度が超高いフレームワークを用いてレビューをしております。
4つの視点に絞って分析をされていましたが、僕は3つに絞って、ざざざっと見ていきます。
ドーナツ経済学とSDGsの理論的な違いは?
これはけっこう面白い問いですよね。SDGsは経済というよりもかなり広い概念を取り扱っているので全然別物に見えます。しかし、ドーナツ経済学(以下DE)も負けておらず、"生物物理学的な上限" と "社会経済的な下限" を合わせたものなので、広く人間と自然の健康を考えているという意味で、けっこう似た概念とも言えるんですね。
さあ、違いはどこにあるのでしょう〜
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DEは合理化された指標体系を持っているため、定量的な評価の実現可能性が高くなる。
→SDGsは項目が多すぎて包括的な評価が困難。 -
DEは社会経済的側面と生物物理学的側面の両方に対してバランスよく評価する。
→SDGsは社会経済的側面のみ。 -
DEの上限と下限は競合的(物質的な経済成長を追いすぎると、生態学的なバランスが崩れる)
→SDGsの各項目は相互的でもある (森の豊かさを守ったら水の豊かさも守れる)
↑DEの方がより正確に人間社会と生態系のトレードオフを示しているということ -
DEはどの程度持続可能性を達成したかを評価できる
→SDGsは、持続可能性を達成したかどうかの評価。 (Shao, 2025)
かなりドーナツ万歳な評価が下されているので逆に斜に構えて見てしまいますが、大方納得できますね。
おそらく1番重要な違いは、「生態学的な上限」を設定しているか否かという部分です。ドーナツの方ではプラネタリーバウンダリーを元に、地球の健康ラインを設定していますが、SDGsでは、例えば「8. 働きがいも経済成長も」には上限がありませんね。
もちろん、社会的基盤が整っていない地域ではこれは特に重要な指標ですが、経済成長がある一定のラインを超えると生態学的な上限とトレードオフになります。
現代の経済が地球1.7個分ということを考慮して、SDGsさん的にももっかい考え直さへんか?ということですね。
他にも、評価の仕方についても物申している雰囲気で、ポストSDGsの目標設定はドーナツにお任せくださいと言わんばかりです。ぼくは大賛成ですね〜。「2050ドーナツ目標」とか、「Sustainable Doughnuts Goals」の新SDGsとか、
ドーナツ経済学の出版状況は?
続いて、どの国が貢献しているのかい?、最近は盛り上がってんのかい?です。
まずは国別から、
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イギリス:64本 (45.71%)
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アメリカ:23本 (16.43%)
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オランダ:17本 (12.14%)
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スウェーデン:13本 (9.29%)
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ドイツ:12本 (8.57%)
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オーストラリア:11本 (7.86%) (Shao, 2025)
やはりこの辺りの研究はヨーロッパが強いですね〜。ドイツ来てよかった。
64人の研究者が全体の約45%を占めているそうで、その活発な研究者はイギリスのリーズ大学に最も多く所属し、同じくイギリスのグラスゴー大学がその次だそうです。イギリス強し。
ちなみに、グラスゴー大学はグラスゴー市議会と共同で「ドーナツシティ」を作るプログラムを進めているそうで、これは面白そうすぎる。
そして、年代別の論文数をズドンと、
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2012年:1本
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2013年:0本
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2014年:2本
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2015年:1本
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2016年:1本
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2017年:5本
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2018年:6本
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2019年:2本
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2020年:6本
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2021年:15本
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2022年:26本
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2023年:29本
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2024年4月まで:7本 (Shao, 2025)
ということで、2021年から急増しており、かなり注目度が高まっているよ〜と言われております。
今後の僕の論文にも期待ですね。
ドーナツ経済学の実証的な進歩は?
本論文では、生態学的上限と社会経済的下限の項目についての進捗が大量にリスト化されております。ここでは、特に重要な進捗だと思ったレビューを2つ抜粋して紹介します〜。
2018年の横断研究 (O’Neill et.al., 2018)
こちらは、上限と下限ともに評価した貴重な研究です。2011年頃の150を超える国と地域の持続可能性を体系的にレビューしております。
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7つの生物物理学的境界の安全閾値内に収まっていたのはわずか16ヶ国
48ヶ国は、6~7つの境界で安全閾値を超えていた
(生物物理学的境界(プラネタリーバウンダリー)は9つだが、2018年当時、残りの2項目は未測定)
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社会経済分野では、ドイツ、オランダ、オーストラリアのみが11の閾値すべてを達成し、7ヶ国が10を達成。35ヶ国は1つの閾値も達成できず。
つまり、ドーナツの上限を超えていないのは16ヶ国のみ、下限を達成できているのは3ヶ国のみと、なかなか骨の折れる現状ですね。
ちなみに、この2024年11月にも系統的レビューが上がっておりまして、こちらではプラネタリーバウンダリー9項目の進捗とこれからについてレビューされております (Rockström et.al., 2024)。そして、僕が軽くまとめたやつがあるのでどうぞ。
2022年の横断研究研究 (Fanning et.al., 2022)
続きまして、期間を1992年から2015年に伸ばし、140以上の国と地域で、6つの生物物理学的指標と11の社会経済的境界の歴史的動向を調査した研究です。
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生物物理学的境界を超えた国の数は、32〜55%から50〜66%に増加。
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基準を達成した国の数は、5つの社会経済的境界(特に平均寿命と就学率)で増加、
2つの境界(社会的支援と平等)で減少、4つの境界ではほとんど変化が見られませんでした。
ドーナツの上限はさらに超えられ、下限は項目によって改善、または悪化している訳ですね。
これらを受け、本丸のレビュー論文では以下のように辛口に結論づけております。
全体として、どの国も、世界的に持続可能なレベルの資源供給で、
すべての国民の基本的ニーズを満たすことはできていない。
ドーナツ経済学の進捗を見ていく論文なのですが、あまり芳しくない現状ですね。
昨年のCOP29では炭素市場のオープンが決定したり、気候資金目標が決まったりと、ドーナツの上限・下限ともに良い動きが見られるので今後に期待なのは間違いないですが、ちょっとまだ楽観的にはなれないな〜という感想を持ちますね。
SDGsも残り5年になるので、今後ドーナツの輪がより広がっていくことを願うばかりです。
まとめ
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ドーナツ経済学は生物物理学的上限と社会経済学的下限の2つを定量的に評価する
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イギリスからの出版が45%で、2021年から論文数も大幅増加中!
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上限は超え続けられている、下限は改善もあるが悪化もある。
参考文献
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Fanning, A.L., O’Neill, D.W., Hickel, J. et al. The social shortfall and ecological overshoot of nations. Nat Sustain5, 26–36 (2022). https://doi.org/10.1038/s41893-021-00799-z
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O’Neill, D.W., Fanning, A.L., Lamb, W.F. et al. A good life for all within planetary boundaries. Nat Sustain1, 88–95 (2018). https://doi.org/10.1038/s41893-018-0021-4
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Rockström, J., Donges, J.F., Fetzer, I. et al. Planetary Boundaries guide humanity’s future on Earth. Nat Rev Earth Environ 5, 773–788 (2024). https://doi.org/10.1038/s43017-024-00597-z
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Shao, Q. Systematic review of Doughnut Economics from 2012 to 2024. Sustain Sci (2025). https://doi.org/10.1007/s11625-025-01640-8
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