【ポスト成長】7つの政策と4つの改善点
こんにちは〜、こちらは「再生可能資源の熱化学的転換」という授業を早々に諦めまして、授業中に過去問を解いております。どうも化学をスライドで学ぶのに興味が持てず身が入らないので、これはもう単位だけ効率良く取ろうモードに入ってしまいました。実験とかをしたらまた興味の持ち方が変わってくるんだろうけども、、
というわけで今回は、ポスト成長の具体的な政策を見ていきましょう。
前回の記事では、「ポスト成長とは、成長からの自立・成長のない繁栄のことだよ〜」と言いましたが、そんな絵空事ばっか言っててもしゃーないぞと、どんな方法があるんだいという声が僕の中でありますので、前回に引き続き、今年1月にランセット プラネタリーヘルスに出た「ポスト成長:惑星の限界の中におけるウェルビーイングの科学」という論文を見ていきましょう。
ポスト成長モデルと "政策"
さあ「成長の無い繁栄」を実現させるための政策についてですが、生態学的マクロ経済モデルという、成長後の政策と経済の軌道をテストするモデルを使って導いております。論文には10個の政策が列挙されておりましたが、ここではわかりやすい7つをズドンします。
1. ユニバーサル・ベーシックインカム
居住者全員に、条件なしで生涯にわたって毎月の収入が保証される制度。生存と雇用を切り離し、不平等を減らす。
議論のポイント:ベーシックインカムがあるせいで事業者が賃金を減らしたり、家賃が上がったりする可能性があること。また、物質的な消費が増えると環境負荷も高まってしまうという可能性がある。
2. 労働時間の短縮
週・年あたりの労働時間を減らす。生産性が上がり、高い雇用を維持でき、幸福をもたらし、環境負荷を減らす。
議論のポイント:自由時間の使用法によっては環境負荷が高まる可能性がある。労働コストが上がると、失業が増える可能性がある。
3. 普遍的な基本サービスの保証
すべての人が医療、教育、住宅、交通、食料、介護サービスに無料でアクセスできる制度。総生産量に関係なく、最低限の生活を保障し、不平等を削減する。
議論のポイント:一部のサービス(食料や住宅)には資力審査が必要になる可能性があり、それがステータスとなれば、人々の相対的地位の比較によって、不安を煽ってしまう。
4. 雇用保証
全ての人に、公共事業における訓練と雇用へのアクセスが保障される制度。非自発的失業をなくし、貧困を減らし、労働力を社会的・環境的に有益な活動に向けることができる。また、経済全体にわたって適切な労働基準と賃金を設定するために使うこともできる。
議論のポイント:労働力の公有が限定的で、公務員のようにはいかないので、公共事業を通じて経済の方向転換を図る可能性が制限される可能性がある。
5. 最大収入
組織内、または社会全体で、最大許容総所得を定める制度。不平等を減らし、富裕層の過剰な購買力を減らす。結果的に、不必要な生産と消費も減り、環境への影響も減る。
議論のポイント:脱税、高給専門職の流出
6. 富裕税
一定の基準を超える資産保有に、累進的な税金を課す制度。不平等を減らし、富をより公平に分配し、社会政策や環境政策の資金として活用できる。
議論のポイント:脱税、富と資本の逃避
7. GDPの置き換え
GDPを、幸福度と持続可能性の指標に置き換える。おそらくGPI(真の進歩指標)やHDI(ニンゲン開発指数)などのこと。政策を幸福度と持続可能性の目標に向けることができる。
議論のポイント:代替指標を支える強力な認識共同体がまだない。GDPによる会計は制度構造に根付いている。
という感じで、やはり焦点は、「経済的で量的な豊かさ」ではなく、「環境負荷の低減と質的な幸福度の追求」にあることがわかります。
そのために、食料や住居、医療などの基本的サービスの無償アクセスに加え、無条件所得、雇用保証、労働時間短縮などがあるんですな。
もちろん、諸手を挙げて賛成という訳にもいかず、「議論のポイント」として挙げた通り、まだまだ改善の余地もたくさんありますし、本当に実現が可能かもわからないというところです。
ということで次に、ポスト成長ほんまにいけますのん?というポイントをさらに見て見ましょう。
改善の余地 4つ
1. 環境・福祉指標の範囲を拡大する必要
最近では、物質フローやエコロジカル・フットプリントなどによって、経済指標だけでなく、生態系を含めた包括的な指標が台頭してきておりますが、まだまだ不十分だと言います。
今回あげたようなポスト成長のシナリオが、生物多様性、土地利用、水資源などの環境変数にどのような影響を与えるのか、正か負かなどを検討することが重要だと。また、人間の健康や生活満足度などを含めたより広範な社会的な尺度をモデル化することも大切なことだと言うております。
2. 経済モデルの地域最適化
現在の国家生態学的マクロ経済モデルは、フランスで作られたもの (D’Alessandro et.al., 2020)と、カナダで作られたもの (Tim et.al., 2020)になるので、他の地域でも作らねばということです。
ヨーロッパと北米以外の地理的・経済的状況に合わせてモデルを調整して、特に南半球の経済に関する政策や、その安全性の問題を評価する必要があるとのことです。
3. 国家モデルの改良
そんな新世代のモデルですが、まだまだ複雑な要因を捉えきれていないようです。貿易・資本・通貨の流れなどの要因はポスト市長のシナリオを複雑化するようです。そりゃそうですよね、不確定な部分も大きいし、実態があるようで無いものなので。
それらを考慮しつつ、国家関係とダイナミズムを捉えた、国家レベルのモデルを改良する必要があるとのことです。
4. IPCCにポスト成長シナリオを入れる
そして最後に、既存の総合評価モデルを改良して世界気候経済モデルを拡張し、IPCC向けにポスト成長のシナリオをモデル化する必要があると。
現在、EUがその関連研究に多大な資源を投入しているそうで、今後5年間(ということは2030、ポストSDGsのことか!)でこれらの全ての分野で重要な進展が期待できるそうです。
というわけで、4つの改善策を見ていきましたが、結構前向きですね。環境・福祉指標の幅がまだ狭い、地域ごと・国ごとに最適化できてない、IPCCに入らねば、という野心的な目標とも言い換えられるかと思います。
僕も現在進行形で経済モデルのプログラムを書く授業をやっておりますので、ぜひとも一役買いたいなあと思っている次第です。この経済モデルのことも記事にまとめようかしら。
まとめ
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政策:ベーシックインカム・労働時間の短縮・基本サービスの保障・雇用保証・最大収入・富裕税・GDPの置き換え
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改善点:環境・福祉指標の拡大、地域・国ごとにモデルを最適化、IPCCに入りたい
参考文献
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D’Alessandro, S., Cieplinski, A., Distefano, T. et al. Feasible alternatives to green growth. Nat Sustain3, 329–335 (2020). https://doi.org/10.1038/s41893-020-0484-y
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Post-growth: the science of wellbeing within planetary boundaries. Kallis, Giorgos et al.The Lancet Planetary Health, Volume 9, Issue 1, e62-e78
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Tim Jackson, Peter A. Victor, The Transition to a Sustainable Prosperity-A Stock-Flow-Consistent Ecological Macroeconomic Model for Canada, Ecological Economics, Volume 177, 2020, 106787, ISSN 0921-8009, https://doi.org/10.1016/j.ecolecon.2020.106787.
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