サーキュラーエコノミー4分類を見てあげて
新学期が始まりまして、これは大変ですなあ。月曜日は会計学とバリューチェーン分析と資源の化学的転換の3つの科目で、1日8時間授業受けてました。これは絶対に武田塾にチクろうと思います。
1学期は英語もままならない中でしたが、今学期はより気合入れてグループワークやディスカッション、プレゼンを通して英語力を上げていこうという所存です。みんなもがんばってね。
さて今回は、たまたま釣り上げたサーキュラーエコノミーの論文が良かったのでまとめてみた、です。
「循環型経済に関する議論の類型」というタイトルの論文ですが、これまでのサーキュラーエコノミーに関する論文や議論などに出てきたパラダイムやビジョンを、わかりやすく4分割しております。
これがあれば、新しくサーキュラーエコノミーに関するニュースや活動を目にした時に、どういうビジョンを持ち、これからどういう行動をしていくのか等が深く見えてくる訳です。
2つの軸
マトリックスの評価軸は、全体的か細分的かの軸と、楽観的か悲観的かの軸の2つでございます。それぞれサクッと見ていきやしょう。
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全体論的な言説 (Holistic)
社会的・生態学的・政治的な視点を包括的に考える -
細分化された言説 (Segmented)
経済的、また技術的要素のみに焦点を当てる
この2つについて、前者の方が良いような印象を持ちますが、こちらはめっちゃ複雑で動きが難しいという短所がある。後者は近視眼的に見えますが、技術発展する際には選択と集中が重要ということですな。
続いて、
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楽観的
経済成長や技術発展によって環境悪化を解決できる -
懐疑的
経済成長や技術発展によって環境悪化は解決できない
シンプルな主張ですが、どのサーキュラーの議論をする時にも、ここを無視して考えるとどこに向かおうとしているのかがわかんなくなるんですよねえ。
とにかく、この軸は、不可逆的な生態学的崩壊が発生する前に、イノベーションが生態学的課題を克服できるかどうかという問題に、楽観的か懐疑的かを示しています。
さあ、この2軸をもとにマトリックスを見ていきましょうう。
サーキュラー4分類
英語ですが、論文の割にはわかりやすくまとまっていたので、そのままズドン。

Calisto et.al., 2020
"改革的" 循環型社会 (Reformist Circular Society)
全体論的・楽観的な "改革派" は、「経済・社会・環境それぞれの分野のイノベーションで、公正な社会を実現や!」と言ってます。
現在のシステムを循環経済に向けて改革できるとする言説で、社会的・経済的イノベショーンが生態系の崩壊を防ぐために重要だと。そしてそのために、新しい形の公衆参加が必要になると、経済・環境だけでなく、社会全体を見た上で公平性を唱えていますね。
解決策としては、産業共生、エコデザイン、バイオミミクリーなどがありますが、特に、R2 再利用/再販、R3 修理、R4 改修、R5 再製造、R6 再利用、R7 リサイクルなどの中間ループに重点を置いています。そもそもゴミを減らすリデュースや、最終の廃棄物処理の部分ではないということです。
ローマクラブやアムステルダム、多くのNPO/NGOはここに位置するそうです。
"変革型" 循環型社会 (Transformational Circular Society)
全体論的・悲観的な "変革派" は、「経済を縮小し、より質素で充足したスローライフをいたしましょう。」と言っております。
改革なんてレベルじゃなくて「変革」だと。個人が地球や地域社会と繋がりをもって共生する、現在のグローバル化社会から完全に変革された社会を想定しています。
解決策としては、3Dプリンター、ソーラーパネル、風力タービン、P2Pプラットフォームなど、生物圏に害を与えず、限られた資源を有効に使う生態学的な技術を推奨しており、地産地消を強調しています。そして "改革的" とは異なり、R0 リジェクトやR1 リデュース等の根本に重点を置きます。
地域のボトムアップイニシアチブや先住民運動など、多くの社会運動はこのタイプが多いそうです。
"技術中心" 循環型経済 (Techno-centric Circular Economy)
細分化され、楽観的な "技術中心派" は、「環境負荷を減らしながら、経済成長と技術進歩を!」と言っております。
循環型イノベーションは、環境負荷と経済成長の分離(デカップリング)に繋がり、生態系の崩壊を防ぐと。いわゆる「環境経済学・資源経済学」など、いわゆる主流派の経済学の立場です。
解決策としては、バイオミミクリーや産業共生に加えて、二酸化炭素回収・貯蔵や、AI、地球工学などの、物議を醸すが最先端な技術を積極的に導入していこうという主義ですね。
EUの政策やAppleの企業戦略、マッキンゼーなどのコンサルなど、国際機関で一般的なビジョンです。
一方で、「細分化された」主義なので、社会正義や市民参加などについては言及しておらず、グリーン成長のための手段としての技術革新に焦点を当てています。
"要塞" 循環経済 (Fortress Circular Economy)
細分化され、悲観的な "要塞派" は、「環境保護や人口減、希少資源管理などの問題には、より強力なトップダウンの対策が必要!」と言っております。
地球規模の限界に合理的に立ち向かうには、トップダウンで人口管理や資源効率化が重要だとする、いわゆる「大きな政府」な立場ですね。
"要塞" については、自国の資源が限定的だからこそ、それを守るために「先進国は国に要塞を作り、飢えた移民を阻止する(Schwartz and Randall, 2003 p.18)」というところから来ているそうです。外部からの影響を最小化し、内部的に完結した経済システムというイメージです。
解決策としては、政府のトップダウンの権威といったところです。この論文では明記されていませんが、循環経済と言いつつも、こちらは政治的な解決策のように受け取れます。
なかなか長所が見えづらいビジョンですが、冷笑的なほど現実主義であるため、地政学的な政策やビジネス界の議論においては重要な役割だそうな。
あくまで机上調査
注意書きとして、この論文は必ずしも全ての言説を4分類できるわけではないよと言っており、ハイブリットに2つの言説を跨ぐことだってあると。
確かに、挙げられている表を見ると、ドーナツ経済学が "改革的" に位置しており、ドーナツは "変革" 側では?とか、思うことはちょこちょこありました。
しかし全てがグラデーションで、こっちよりのあっち、みたいに頭の中に地図を作っていたらかなり議論がやりやすいなあと思う次第です。
本論文の結論付けがすごい素敵なので、最後にどうぞ。
この論文では、循環性のさまざまな言説を解明してナビゲートすることで、この論争の的となっているパラダイムの議論と実装において、包括性、コラボレーション、多元性を高めることを目指している。
異なるビジョンを持つ人たちがコラボする際、変に敵対して論破的になるのではなく、目指すべき世界はどちらも良いものなのだから、互いを理解するための取説を持っておこうねと、優しい研究者なのでした。
まとめ
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全体論的か細分的か、楽観的か悲観的かで4分類
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社会全体イノベーションで公平な "変革派"
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スモールで自立共生な "改革派"
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経済発展の "技術中心派"
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自国ファーストでトップダウンな "要塞派"
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みんな仲良くしよう
参考文献
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Calisto Friant, M., Vermeulen, W. J. V., & Salomone, R. (2020). A typology of circular economy discourses: Navigating the diverse visions of a contested paradigm. Resources, Conservation and Recycling, 161, 104917. https://doi.org/10.1016/j.resconrec.2020.104917
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Schwartz, P., Randall, D., 2003. An abrupt climate change scenario and its implications for United States National Security. Washington, DC.
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