バイオエコノミー50年のレビューと未来
こちら、バイオエコノミーコースの2学期目が今日から始まる訳ですが、1週間で授業が合計8個並んでおります。
内容は、資源利用の効率性、資源の技術・化学的転換、バリューチェーン分析、ファイナンスマネジメント、グループリサーチなど、えぐい幅広さと専門性が求められるのに加えて、花粉がえぐい。日本ではあんま花粉症無かったのに、ドイツの花粉えぐい。目の痒みと鼻水すごい。やっていけんのか。
さぁ今回の論文は、バイオエコノミーの50年間の変遷をレビューしたもので、出版動向と、それらの内容がFAOによって定義された原則・基準と適合しているのかを調べたものです。
「バイオエコノミーを批判しよう」でも書きましたが、この概念は必ずしも持続可能性と結びつかないことがある厄介なやつなので、しっかりレビューして、何が足りてないのか、これからどうするかを明確にする必要があるんですな。
めっちゃいいことが沢山書かれていたのでぜひともどうぞ。
出版物の変遷
1970年代の初登場から2023年までの、Scopusデータベースにあるジャーナル論文6502件を調査しております。
年代と文献数
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2010年までに出版されたのは317件 (5%以下) のみ
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2021年以降に発表された論文が全体の40%以上を占める
→2017年には400件/年を超え、2021年には約1200件/年に上る (Virgolino et.al., 2025)
関連分野
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環境科学 (19.20%)
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エネルギー (11.65%)
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農業・生物科学 (10.76%)
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化学工学 (8.04%)
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一般工学 (7.73%) (Virgolino et.al., 2025)
地理的分布
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ヨーロッパが約60%
→ドイツ、イタリア、イギリス、スペイン、フィンランド、オランダ、フランスなど -
北米が約11% (Virgolino et.al., 2025)
2018年頃からは、特にドイツ、アメリカが優位になり始め、2023年にはドイツがバイオエコノミーに関する出版で主要国になっているんだとか。
これは、ドイツ固有の改正再生可能エネルギー源法(2014)によって、バイオマスとバイオエコノミーに注目が集まっているからなんですって。良いこっちゃ。
バイオエコノミー論文 3つの盲点
これらの論文と、FAOによって定義された「持続可能なバイオエコノミーのための意欲的な原則と基準」とを比較して、しっかりと基準に沿った研究やってますか〜ということです。
ざっくりこのFAOの定義をまとめると、経済(イノベーションや平等)・社会(食料や責任)・ガバナンス(協働や透明性)・環境(再生や循環)の4項目を持続可能なバイオに転換しましょうぜってことを、それぞれ階層目標にして小さく行動目標を作ってる感じです。
その原則に基づいて評価すると、大きくまとめて3つの盲点がありまっせ〜と言うております。
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全ての人が資源にアクセスし、成長の利益を実現する権利
こちらは、特に食料安全保障と栄養に焦点が当たってないそうです。例えば、サトウキビを燃料として使うのか、食料として使うのかで競争が起きるというようなことを指しておりまして、先進国のエネルギー原料が、途上国の食料生産よりも優先されるようなことが起きたらあかんでしょと、資源配分に関する倫理的な問題を提起しております。 -
既存の技術や伝統的な知識システムの、潜在的な利点をほとんど無視している
なるほど、こちらはイノベーション偏重になっていることを指摘している訳ですね。伝統的な知識は、時の試練を経た持続可能性の権化なはずなのに、それが軽視されているんだと。イノベーションも大切だけど、伝統的慣行を組み合わせたアプローチが強調されてます。 -
バイオ生産だけでなく、持続可能な消費の概念とバランスを取る必要性がある
多くの研究では、生産のあり方と経済成長に重点が置かれていてそれは良いことだが、消費側が見落とされてませんか〜と指摘しています (Holden et.al., 2023)。長期的な環境保全を促進するように消費行動が起きないと、単なる経済成長の追求だけでは生態系も社会福祉も悪化しますぜ〜とのことです。
雑にまとめると、食料生産にもっと配慮して!伝統的な解決策もけっこう良いぜ!消費者意識をもっと高めよう!です。
けっこう1学期でやったことと被るので面白いなぁと思いながら読めました。食料と競合するバイオエネルギーはサステナブルじゃないよね〜とか、イノベーション偏重は良くないよね〜とかはしっかり叩き込まれましたね。
次の10年に必要な、8つの研究ギャップ
この分析から、今後に絶対優先されるべき8つの重要な研究テーマがあるよと言っております。ただそんなに詳しくは述べていないので、僕もメモ程度にここに残しておきます。
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バイオエコノミーと食料安全保障、食料へのアクセス、食品安全との相互作用
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水の役割、特に必要な量とそれが品質に与える影響
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社会全体での有意義な包括的協議、特に伝統的・先住民族の知識の活用に重点を置く
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土地の権利に特に焦点を当てた包括的な成長
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持続可能性の全ての側面に、同等の注意と優先順位が与えられる政策統合
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バイオエコノミーシステムの回復力
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新しいシステムが導入される際の、リスク評価と説明責任
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需要の維持と廃棄物の価値化に重点を置くのではなく、持続可能な消費と廃棄物の回避に重点を置く
なにせここ数年で注目を集めている新しい分野なので、まだまだ発展途上で入り込む隙があるなあとニヤニヤしながら色んなところを狙っていきます。
かなりクリティカルに問題点を指摘しながらも、すごく前向きに研究テーマまで具体的に挙げてくれる、しがない学生にとってはかなりの優良論文でした。ぜひ皆様もご一読を。
まとめ
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2021年以降に論文数が激増してる
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2023年からは特にドイツが強い(いぇーい)
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食料との競合、伝統的な解決策、消費側への対策の3点が弱い
参考文献
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Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO) (2021) Aspirational principles and criteria for a sustainable bioeconomy. Food and Agriculture Organization of the United Nations, Rome
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Holden, N.M., Neill, A.M., Stout, J.C. et al. Biocircularity: a Framework to Define Sustainable, Circular Bioeconomy. Circ.Econ.Sust.3, 77–91 (2023). https://doi.org/10.1007/s43615-022-00180-y
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Virgolino, J.L.F., Holden, N.M. Does the bioeconomy literature provide a balanced view of sustainability?. Sustain Sci (2025). https://doi.org/10.1007/s11625-025-01642-6
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