バイオエコノミーを批判しよう
さて、前回はバイオエコノミーとは一体何だと言うことを書きましたが、今回は、自分の専攻を自ら批判してみようという回です。
さっそく一つ目です。
1. 自然の新自由主義化
Birch(2006)さんによると、"Neo-liberalization of Nature" 「自然の新自由主義化」だということです。
バイオエコノミーは、「化石資源の代替!バイオテクノロジー!と言って、これからは環境にも優しくいくんやでえって息巻いてますが、いや、それいつも通りの新自由主義やで。って感じですね。
具体的には、以下のような点が指摘されています。
-
バイオテクノロジーの進展により自然資源が私有化され、遺伝子や微生物などの生命資源が特許として保護され、大企業による独占が進んでいる。そして他者をこの利益から排除し、希少性を作り出すことで推進されている (Birch, 2006)。
-
バイオエコノミーは生命科学の分野でイノベーションを商業化する大企業の利益を追求するために推進されており、バイオエコノミーが「土地の強奪」を促進し、食糧安全保障と自然保護を脅かす(Gottwald, Budde, 2015)。
結局バイオエコノミーは、大企業が自然を新たな市場として捉え、利益追求の対象としているに過ぎないという主張です。
痛いとこ付いてきますね〜。もちろん、それらの大企業の経済的な繁栄が技術進歩を促して、環境に優しくなるんやんけって言ったらそれっぽいですが、個人的にもイノベーション偏重なビジョンには懐疑的なので、これは良い批判だなあと。
2. グリーンウォッシュ批判
ドイツのスーパーに行くと、至る所に「BIO」マークがあります。オーガニック製品の認証マークで、消費者がより簡単にエコな消費ができるようにと、たくさん貼られております。
日本ではあまり見ないですが、サステナブルな魚を使ってるとか、CO2排出量が少ないとか、生物多様性に貢献してるとか、いろんな種類があります。
しかし、WWF(デンマーク)の研究では、残念なことに、以下の点が指摘されてます。
-
バイオエコノミーのラベルの下で推進されている多くのイニシアチブが環境的に持続可能ではない(WWF, 2009)。
つまり、「BIO」ラベルの下で推進されてきたアプローチが、意図してか意図せずか、持続可能性を達成するという目標に適合していない場合があるということです。
16年前の研究なので、さすがに現在では改善されていてほしいですが、ラベルの問題点は本当にイタチごっこなので、しっかりと批判的視点を持って取り組むことが重要です。
とはいえ、そんなウォッシュなラベルなんか消費者がどう見分けたらいいんやといいう話ですよね。論文ではWWFをはじめとしたNPO/NGOの第3者チェック、そして政府の厳しい基準設定が大切だと言っておりますので、偉い人たち、頼みますよ。
日本で言うと、オーガニックのJASマークがこのバイオの代わりだとは思いますが、こちらも良い基準と言えるのかどうか、またちゃんと調べてまとめたいなと思っております。
他の批判として、
-
バイオエコノミーは技術の進歩と社会の進歩を混同する「マスター・ナラティブ (社会的・政治的な単語みたいな意味)」に過ぎないと言われてたりもする (Delvenne, 2013)。
-
持続可能性は、再生可能資源を使用するだけでは達成できないことを強調する必要があります。 (Gawel, 2019)。
などなど、議論が盛り上がっているのは良いことですねぇ。
やはり、バイオエコノミーは学問領域として勉強するのではなく、社会通念として目指すべき方向性という意味で理解した方がいいのかなというのは自分の中の結論として出てきてますね。
ビジョンとして「化石燃料から脱却して生物資源の経済を実現する」というのはいい感じですが、まだ克服しきれていない具体的な問題点が山積みです。
現在の我が専門とはいえ、甘やかしてはおけません。
まとめ
バイオエコノミーに対する批判には、「技術発展こそ正義!という感じで、大企業が自然を収奪することで成り立つ新自由主義的なアプローチだ」のようなものがある。
グリーンウォッシュも残念ながらあるし、そもそも、バイオエコノミーの「再生可能資源を使っていこう」って概念自体がサステナブルなのかどうか怪しいって言ってる人もいる。
参考文献
-
Birch K (2006) The neoliberal underpinnings of the bioeconomy: the ideological discourses and practices of economic competitiveness. Genomics Soc Policy 2 (3):1–15.
-
Delvenne, P.; Hendrickx, K. The multifaceted struggle for power in the bioeconomy: Introduction to the special issue. Technol. Soc. 2013, 35, 75–78.
-
Gawel, E.; Pannicke, N.; Hagemann, N. A path transition towards a bioeconomy—The crucial role of sustainability. Sustainability 2019, 11, 3005.
-
Gottwald, F.T.; Budde, J. Mit Bioökonomie die Welternähren? Institut für Welternährung—World Food Institute e.V.: Berlin, Germany, 2015.
-
WWF. Industrial Biotechnology—More Than Green Fuel in a Dirty Economy? World Wide Fund for Nature (WWF): Copenhagen, Danmark, 2009.
すでに登録済みの方は こちら