2050年に3℃いく説が出た

2025年7月出版の論文です。これまでの予測よりも悲観的だが、冷酷なまでに現実的。
keene 2025.05.26
誰でも

イタリア旅行のつけが回って、授業にまだまだ追いつけない。スライドを読み、練習問題を解き、Geminiに質問をする毎日。家と図書館とスーパーの三角形が僕の縄張り。客観的に文字にしてみると地獄のようだが、本人はなぜか、けっこう心地の良い暖かさに思っている。

という小説始まりを横目に、今回は、"Global Environmental Change" という雑誌の2025.7月号に掲載された、"3℃の未来の歴史:温室効果ガス排出の地球規模および地域規模の要因(1820~2050年)" という論文を読んでいきましょう (Juan et.al., 2025)。

温室効果ガスの排出要因をこれまでの研究よりも広く正確に捉え、経済成長との関連性を示し、このまま行くと3℃だぜと警鐘を鳴らしております。

これまでの研究

はじめに著者ジュアン氏は、温室効果ガスに関する近年の研究の限界を指摘しています。

「近年の研究は、"化石燃料から"のCO2排出量のみを考慮する傾向がある」ということです。

それによって、正確な現状把握ができてないというんですね。適切にカウントしないと、気温上昇を止めるための適切な解決策が変わってきちゃう訳ですね。

ということで、この研究では、1820年から現在までのGHG排出量を追跡して、より正確に炭素を計上しようとしております。

土地利用によるGHG排出が大きい

以下のグラフa) の通り、1820年のGHG排出量は31億トン/年だったところから、2018年には年間539億トンになっております。やはりこうして改めてグラフを見るとすごい増加速度ですね。

Juan et.al., 2025

Juan et.al., 2025

そして、グラフb)を見ていただくと、今回の論文の趣旨がわかります。

つまり、1969年までは、化石燃料は温室効果ガスの主な排出源ではないということです。

もちろん、現在の年間GHG排出量の大部分を占めるのは化石燃料で間違いないです。

しかし、累積排出量で見ると、1820年以降の化石燃料起因の排出量は48%であり、諸々の誤差を調整しても、グラフc) で示されている通り、総排出に占める累積の割合は56%に止まるとのことです。

じゃあ残り半分は何かと言うと、主に農業、林業、その他土地利用の変化による排出です。

特に、グラフb) の前半で、最大の排出源である茶色の「CO2 LUC」は、主に森林伐採の結果として排出されるCO2であり、世界の累積排出量の23%を占めます。

加えて、前半で大きな割合を占める、オレンジの「N2O Bio」と黄色の「CH4 Bio」は、それぞれ主に農業活動によって発生するものであり、累積排出量は18%を占めます。

森林伐採、農業の累積排出量の合計は41%で、この土地利用の変化が意外と大きい訳ですね。

3℃上昇の未来

OECDによると、2050年までに世界のGDPは1.9倍 (年成長率2.6%) に増加する見込みです。

その一方で、パリ協定の2℃目標を達成するためには、2019年から2050年の間に、総排出量を65%(年成長率-3.4%)削減する必要があります。

この2つの目標に従うと、2050年までに、炭素強度(GDPあたりの排出量)は、現在のGDP1ドルあたり0.5kgから0.009kgに削減する必要があると言います。これまでの3倍の速さが必要です。

炭素強度低下の歴史

過去2世紀にわたって、炭素強度(GDPあたりの排出量)は低下してきています。

1820年から2018年までの年間変化率は-0.9%であり、特にここ数十年は、年間-2.2%と、低下ペースは急速に進んでいます。

しかし、2050年までの気候協定を満たすレベルには程遠く、この傾向が今後30年続いたとしても、2050年までの炭素強度はGDP1ドルあたり0.02kgで、目標の0.009kgには及びません。これは、産業革命以前から3℃以上気温が上昇するレベルです。

Juan et.al., 2025

Juan et.al., 2025

以上のグラフは、炭素減少率が10年続くパターン・30年続くパターンを図解したものです。過去の炭素強度の減少率は、緑の「2℃未満」に抑えるには全く及ばず、さらに悪いことに、ここ数十年で低下傾向が停滞してきており、3℃以上のとこにずっといます。

つまり、炭素強度は引き続き低下しているけれども、その "低下率" は横ばい状態にあり、期待される水準に近づいている兆候は見られない、ということです。ピンチでございます。

経済成長と炭素強度

そして、2050年までの30年における経済成長と、炭素強度(GDPあたりの排出量)の低下の関係性を見ていきます。

経済成長が進むと、その分炭素排出量が増えるので、炭素強度をより低下させる必要があります。

逆に言うと、経済成長が鈍化すると、必要な炭素強度の低下は小さくなり、脱成長シナリオではさらに低くなります。それを示したグラフが以下です。

2050年までのGDP成長率と炭素強度の関係 (Juan et.al., 2025)

2050年までのGDP成長率と炭素強度の関係 (Juan et.al., 2025)

赤が3℃以上の気温上昇、黄色が2℃-3℃、緑が2℃未満を示す範囲です。GDP成長率が高くなればなるほど、炭素強度の低下率も上げる必要があることがわかりますね。

参考までに、過去2世紀の世界は、年間GDP成長率が平均 2.4%、炭素強度の低下が -0.9% であったとのことです。

そして、地域的に特筆すべきは東ヨーロッパです。1985年~2014年に、2.5% の経済成長を達成し、炭素強度は -3.6% で過去最大であったと。

しかし、残念なことに、この例外的な実績をグラフに当てはめてみてください。世界で再現したとしても、2℃目標には全然届かないことがわかります。経済成長2.5%の炭素強度では、5%代後半くらいが必要になりますね。どうしたことやら。

ということで、著者は最後に以下のように言っております。重要なのでそのまま。

OECDが予測するペースで経済成長を持続させるには、世界経済の炭素集約度を前例のないほど向上させる必要がある。逆に、炭素集約度が現在の歴史的平均値で低下し続ける場合、気候変動対策目標の達成は、世界GDPが年間約1.4%の持続的な縮小を余儀なくされることになる。しかしながら、これほど長期にわたる景気後退は、近代世界史において地域的にも世界的にも前例がない。
Juan et.al., 2025

ということで、GDPあたりの炭素排出量の効率を55倍にするのか!もしくは、世界GDPを年間1.4%持続的に縮小させるのか!という、「前例ない対決」を迫られているという訳です。

まとめ

著者は今回の論文で、CO2排出量の正確な把握を指摘した上で、「成長経済にするなら炭素強度下げなさいよ〜、無理なら脱成長論も今提唱されてるね〜。いや〜どっちも前例が無いよ〜。でもこのままやと3℃上がるでこれ。」と言っている感じです。

  • 累積炭素排出量は、化石燃料由来が48~56%、土地利用変化が42%。後者ももっと言及しよう。

  • 炭素強度を、現在のGDP1ドルあたり0.5kg-CO2から、2050年までに0.009kg-CO2に削減する必要がある

  • もしくは、炭素強度は今のまま、世界GDPを年間1.4%縮小させる必要がある

  • さもなくば3℃以上気温が上がる

というか、もうこの論文で1.5℃目標のこと触れられもしないの何事って思いました。2℃ or 3℃ってな感じ。

参考文献

  • Juan Infante-Amate, Emiliano Travieso, Eduardo Aguilera, The history of a + 3 °C future: Global and regional drivers of greenhouse gas emissions (1820–2050), Global Environmental Change, Volume 92, 2025, 103009, ISSN 0959-3780, https://doi.org/10.1016/j.gloenvcha.2025.103009.

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